幕間 王都の写し
五月の終わり、王都の研究院の院長室で、セリウス・ヴェルンは、カーヴェルから届いた写しを読んでいた。
写しは三枚あった。河務局カーヴェル支局、読取所。記録、登録官ミラ。几帳面な字だった。
就役権失効後の任意の分類検査。被検者、リア・セルヴィ。役割を替えた同じ作業、三回。板を替え、器具を替えて、同じ三回。個々の動作の反応は、いずれも安定。職業、――。再測定、一致。対照、荷役工、有効。原記録、カーヴェル支局に保管。
部屋には、古い紙とインクの匂いがこもっていた。壁の棚には、各地の読取所から届いた写しの束が、年ごとに紐で括られて並んでいる。
セリウスは、束ねた白い髪の後ろに一度手をやり、写しを机の上で揃えた。紙の端を、指で一枚ずつ合わせる。
三枚目の下に、一行だけ、別の記録があった。作業の相手、技能欄。観測、候補。再現、一回。
セリウスの指が、その行で止まった。それから、また動いた。
「器具の不調として、保守記録に……」
机の脇で、書記が言いかけた。
「入れるな」
セリウスは、写しから目を上げなかった。
「板も、器具も、替えてある。対照も、取ってある。この登録官は、原記録を残している」
書記が、ペンを持ったまま黙った。
「書庫の保守記録を、出せ。接触不良と書かれたものも、測定不足と書かれたものも、全部だ」
「全部、ですか」
「同じ形のものが、あるかもしれん」
セリウスは、窓の外を見た。王都の屋根が、夕方の光の中に並んでいた。カーヴェルは、その向こうの、ずっと先にある。
「本人には、何も求めるな。測り直すなら、本人が望んだときだ」
書記はそれを書き留め、少しためらってから聞いた。
「この欄は、何と呼びますか」
セリウスは、写しの横線を見た。字の代わりに引かれた、一本の線。
長いあいだ、何も言わなかった。
「まだ、名前を付けるな」




