↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/45

やっぱり師匠を基準にしたら駄目なんじゃないか……?

試験の翌日。


レイジはエレノアとともに、再びルヴェリア王立大学へ向かっていた。


昨日とは違い、今日は試験を受けるわけではない。目的はただ一つ、四級錬金術師試験の合格発表を見るためだった。


「そういえば」


大学へ向かう途中、エレノアが思い出したように口を開いた。


「毎年、成績の良かった者には企業や工房から声がかかるらしいぞ」


「スカウトですか?」


「そうだ。四級を取れば仕事として錬金術を扱えるようになるからな。優秀な者を早いうちに確保しておきたいのだろう」


なるほど。考えてみれば当然の話だった。


四級錬金術師になれば、ようやく錬金術師として仕事ができる。企業側からすれば、試験結果は新人を探すにはちょうどいい材料なのだろう。


「お前にもいくつか来るだろう」


「来ますかね」


「来るだろう。だが――」


エレノアがこちらを見る。


「十年の約束だからな」


「分かってますよ」


忘れているわけがない。


十二歳でこの世界に来て、行く当てもなかった自分を弟子にしてくれた。その時に交わしたのが、十年間エレノアの下で錬金術を学ぶという約束だ。まだ三年しか経っていない。


そもそも、昨日の試験に受かっているかどうかも分からないのに、就職先の心配をするのは気が早い。


(大丈夫だとは思うけどな)


昨日の手応えは悪くなかった。少なくとも、何か致命的な失敗をした覚えはない。


そんなことを考えているうちに、ルヴェリア王立大学へ到着した。


昨日と同じように、大学には大勢の人が集まっていた。ただ、昨日とは空気が違う。


試験前の緊張した雰囲気はなく、あちらこちらから歓声や落胆した声が聞こえてくる。どうやら、すでに結果を確認した者も多いらしい。


レイジとエレノアも人の流れに従って進む。


やがて見えてきたのは、大きく掲示された試験結果だった。


「……ずいぶん詳しく出すんだな」


合格者は順位順に並べられていた。


名前だけではない。《識別》《抽出》《精製》《付与》《発現》。五科目すべての点数と、その合計まで載っている。周囲では同じ内容が記された紙を手にしている者もいる。


(さすが異世界だけあって、個人情報の概念がないな……)


前世の会社でこんなものを張り出したら、一体どこから怒られるのだろう。


まあ、この世界でそんなことを気にしているのは自分くらいか。


レイジは気を取り直して、自分の名前を探すことにした。


昨日はそれなりにできたと思う。なら、真ん中より少し上くらいから見ればいいだろう。


視線を走らせる。


「……ないな」


もう少し上か。


再び名前を追っていく。


ない。


さらに上へ。


「…………」


まだない。


思っていたより、かなり上だったらしい。レイジの視線は、そのまま上へ上へと移動していった。


そして、とうとう掲示の一番上まで辿り着く。


一位 レイジ・クゼ


「…………」


あった。


まず浮かんだのは、それだった。


つまり、受かった。四級錬金術師試験に合格した。


三年前、ゴブリンの牙を前に《識別》すらまともにできなかった自分が、四級錬金術師になった。その事実が遅れて胸に落ちてくる。


そして、そのすぐあとに。


(……一位?)


もう一度見る。


間違いない。


一位。


(トップかよ!!!!)


さすがにそこまでは思っていなかった。


慌てて横に並んだ数字を見る。


《識別》 98

《抽出》 100

《精製》 100

《付与》 100

《発現》 100


合計 498


「……四百九十八」


思わず声に出た。


《識別》で二点落としている。それ以外は全部満点だった。


昨日の実技は上手くいったとは思っていた。《抽出》も、《精製》も、《付与》も、大きな失敗はなかった。《発現》で作ったものだって、悪い出来ではなかったと思う。


それでも。


(満点だったのか……)


自分で思っていたより、ずっと評価されていたらしい。


では、他の受験者はどのくらいなのだろう。


レイジはすぐ下へ視線を移した。


二位 セシリア・ギルバート


《識別》 94

《抽出》 95

《精製》 93

《付与》 92

《発現》 91


合計 465


三位 ハロルド・バラック


《識別》 88

《抽出》 91

《精製》 92

《付与》 94

《発現》 95


合計 460


そこから先も名前と点数が続いている。順位が下がるにつれて点数は少しずつ広がり、合格基準である四百点へ近づいていく。


「……三十三点差?」


二位との差を計算して、レイジは首を傾げた。思っていた以上に離れている。


その時だった。


「ギルバートが二位?」


すぐ近くから声が聞こえた。


「嘘だろ。あのセシリア・ギルバートが?」


「いや、二位だ。ほら」


「四百六十五点だぞ。それで二位なのか?」


レイジは声の方へ目を向ける。何人かの受験者が掲示を見上げていた。


どうやら、二位の名前について話しているらしい。


(ギルバート……有名な人なのか?)


レイジにはまったく覚えがない。


この三年間、ほとんど森でエレノアと錬金術ばかりやっていたのだから、同年代の有名な錬金術師など知るはずもなかった。


「一位、四百九十八だぞ」


「実技、全部百点じゃないか」


「レイジ・クゼって誰だ?」


今度は自分の名前が聞こえてきた。思わずそちらを見る。


「知らないな」


「俺も聞いたことない」


「でも、クゼって……なんか論文に名前なかったか?」


「論文?」


一人が何かを思い出そうとするように眉を寄せる。


「ああ! 《格納》の!」


「そうだ。《格納》の論文だ。共著にレイジ・クゼって名前があったはずだ」


「え? じゃあ同じ奴なのか?」


「名前まで同じなら、たぶんそうだろ」


周囲の視線が、再び一位の名前へ集まっていく。


レイジは何とも言えない気分でそれを聞いていた。


(……そっちまで知られてるのか)


《格納》について発表したことはもちろん覚えている。論文に自分の名前が載っていることも知っている。


だが、見ず知らずの受験者が名前を覚えているとは思っていなかった。


もう一度、掲示を見る。


一位。四百九十八点。二位とは三十三点差。


しかも、その二位はどうやら試験前から名前を知られていた人物らしい。


(……俺、思ってたよりいい成績だったのか?)


少なくとも「そこそこ」ではなさそうだ。


「確認できたか?」


隣から声をかけられ、レイジは振り返った。


エレノアがいつも通りの顔で立っている。


「受かってました」


「そうか」


「一位でした」


「そうか」


「四百九十八点でした」


「そうか」


「……もうちょっと何かないんですか?」


「合格すると思っていたからな」


あっさり言われた。


周囲では今も一位の成績について声が上がっているというのに、師匠だけは普段と何も変わらない。


(やっぱり師匠を基準にしたら駄目なんじゃないか……?)


そんなことを思いながら、レイジはエレノアとともに掲示の前を離れた。


大学の外へ向かう。


これで、四級錬金術師になった。ひとまず目的は達成した。


あとは森へ戻れば、またいつもの修行が始まる。


「レイジ・クゼさんですね?」


不意に、後ろから声をかけられた。


足を止めて振り返る。見覚えのない男が、こちらへ歩いてくる。


「はい」


レイジが答えると、男は軽く頭を下げた。


「突然申し訳ありません。クラーク錬金魔道具のマルク・ヘイデンと申します」


男はそう名乗ると、レイジへ向き直った。


「少し、お話をさせていただけませんか?」

ここまでお読みいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけましたら、評価やブックマーク、感想をいただけると、とても励みになります。

引き続きよろしくどうぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。