これ、本当に鉱脈なんですか?
「これ、どこから採れた鉱石なんですか?」
レイジが尋ねると、ノエルは少し考えてから手元の記録へ視線を落とした。
「採掘元、ですよね。ちょっと待ってください」
机の上に積まれていた紙を何枚かめくる。第五倉庫へ搬入された荷物の記録は、先ほどまで何度も確認していた。
「ありました。問題のオリハルコンがここに入ったのは、七日ほど前です」
「採掘したのもイステンデットですか?」
「いえ。うちは運搬を請け負っただけですね」
ノエルが記録を指でなぞる。
「依頼元はセレスティア・アルケミーです。採掘した鉱石を、グレイスの第五倉庫まで運んでほしいって」
「じゃあ、採掘した場所はセレスティアなら分かりますね」
レイジが言うと、ルークが頷いた。
「確認してみます」
そこから先は、ルークの仕事になった。セレスティア・アルケミーの錬金術師であるルークが問い合わせ、ノエルがイステンデット側の運搬記録を照合する。レイジにできることは少ない。エレノアに至っては椅子に座り、煙管をふかしていた。
待つことしばらく。
ルークが新しく届いた資料を持って戻ってきた。
「分かりました」
机の上に資料を広げる。
「採掘されたのは、ここへ運び込まれる一日ほど前です。場所はグレイスの北、氷竜山脈の麓ですね」
「そんな近くだったんですね」
「ええ。最近、セレスティアが独自に見つけた鉱脈らしいです」
レイジは資料を覗き込んだ。採掘場所を示した図を見ても、詳しいことまでは分からない。ただ、グレイスからそれほど離れていない場所だということだけは分かった。
「新しく見つかった鉱脈から採ったオリハルコンを、イステンデットが運んで、ここに置いたと」
「そうなります」
これで経路は繋がった。だが、それだけなら何もおかしくない。
問題の鉱石がどこから来たのかは分かった。それでも、《格納》へ干渉していた何かについては何も分かっていない。
ルークが次の資料を手に取った。
「ただ、少し変なんですよね」
「何がですか?」
「この鉱脈、もうないんです」
レイジはルークを見る。
「ない?」
「今回で全部採掘したそうです」
ルークが資料を机に置く。
「元々かなり小さな鉱脈だったみたいですね。見つかった範囲を採掘して、それで終わりです」
「オリハルコンの鉱脈って、そんなものなんですか?」
「いえ」
即答だった。
ルークは採掘記録をめくり、別の箇所を指す。
「それだけじゃありません。採掘された地層もおかしいです。この辺りでオリハルコンが見つかるなら、もっと深いところになるはずなんです」
「ここから出るはずがない?」
「絶対にない、とまでは言えません。でも、少なくとも普通ではありません」
エレノアが煙を吐いた。
「なるほどな」
ようやく椅子から立ち上がり、資料を覗き込む。
「場所が違う。量も少ない。しかも局所的か」
「はい。周辺から続けて採れるような形でもなかったようです」
ルークが答える。
レイジも資料を見る。本来なら存在しないはずの地層。そこだけにあったオリハルコン。新しい鉱脈として発見されたが、一度掘っただけでなくなった。
そして、その鉱石には《格納》という未知の性質があった。鉄鉱石とオリハルコン鉱石を何度も行き来し、最後には鉄鉱石で止まった。《格納》そのものは、今も残っている。
なら。
「これ、本当に鉱脈なんですか?」
ルークが顔を上げた。
「え?」
「いや、俺も鉱山のことは全然分からないんですけど」
そこは先に断っておく。
「普通ならない場所にあって、そこだけに固まってて、一回掘ったら全部なくなったんですよね?」
「そうですね」
「だったら、最初から鉱脈だったって考えなくてもいいんじゃないですか?」
ルークが黙った。ノエルも資料へ視線を落とす。
レイジ自身、何だったのかは分からない。鉱石の知識ならルークの方が遥かに上だし、錬金術についてはエレノアと比べるまでもない。ただ、今まで分かったことを並べると、そう考える方が自然に思えた。
「別の何かがそこにあって、それを掘ったらオリハルコンだった、とか」
「……なるほど」
ルークがもう一度資料を見る。
エレノアは何も言わなかった。代わりに、口元だけが少し上がっていた。
「師匠?」
「いや」
煙管を指先で回す。
「続けろ」
何をだ。
レイジはもう一度資料を見る。《格納》の機能を調べていたはずだった。どうすれば切り替わるのか。何を内部に持っているのか。抽出すればどうなるのか。
だが、それだけでは足りなかったらしい。その性質を持っていたものが、どこから来たのか。どんな場所にあったのか。そこまで遡って、ようやく見えるものもある。
「鉱脈じゃないとすると……」
ノエルが呟く。
「じゃあ、何なんでしょう?」
「それが分かれば苦労はしないな」
エレノアが答えた。
「少なくとも、自然に形成された普通のオリハルコン鉱脈だと考えるには妙な点が多い」
ルークも頷く。
「《格納》のこともあります。採掘場所のことも含めて、一度セレスティアへ報告します」
「お願いします」
ノエルが答える。
ルークは机へ向かい、資料をまとめ始めた。
また報告か。
レイジは少しだけ同情した。四級錬金術師というのも大変らしい。
しばらくして、ルークがまとめた調査結果はセレスティア・アルケミーへ送られた。
返事は、思っていたより早かった。
「……大学?」
レイジは聞き返した。
「はい」
ルークが返答の書かれた紙を見る。
「アイゼンハルト大学へ正式に報告した方がいい、とのことです」
未知の性質《格納》。鉄鉱石とオリハルコン鉱石を切り替える、何者かの干渉。本来オリハルコンが存在するはずのない地層から、局所的に採掘された鉱石。
そこまで揃うと、もう一企業の中だけで調べ続ける話ではないらしい。
「既存の性質や研究記録と照合する必要があるそうです。新しい性質なら、なおさらですね」
「なるほど」
レイジは頷いた。それなら確かに、自分たちだけで調べ続けるより話が早い。
「師匠、アイゼンハルト大学って――」
振り返る。
エレノアは、特に驚いた様子もなく煙管をふかしていた。
「行けば分かる」
またそれか。
レイジは小さく息を吐いた。
倉庫の鉱石が鉄に変わった。最初は、それだけの話だった。それを調べているうちに、知らない性質が見つかった。今度はその出所を調べたら、鉱脈そのものまで怪しくなった。
そして次に行く場所は、王国最高峰の錬金術研究機関。
どうしてこうなった。
レイジは目の前の鉄鉱石を見る。
調べるものは、まだまだ残っているらしい。




