一拍遅れた絶望
程なくして城に到着し、馬車から降りたロゼは立派な城を見上げた。
ウォルセドナ領はかつて国のために身を捧げた三人の女神のうちの一人の墓を守っていることで知られているが、大きな鉱山をいくつも持ち、宝石産業で潤っていることでも有名だ。その他にも肥沃な土地と広大な土地を利用して農業や酪農も盛んだ。
こんな立派な城が建つのも頷けるわね。
馬車から降りて、城の入り口までは長い。
馬車が入れる造りになっているのに、随分と手前で降ろされたのはきっと嫌がらせだ。
しかもカインはロゼの少ない荷物を持たず、振り返ることもせずに一人で先を歩いて行く。
残された若い御者が戸惑いながらも『引き返しますか? 町の宿も紹介できますが……』と同情的な視線と気遣う言葉をくれたが、馬車をこんな所に放置するわけにはいかないし、馬も疲れている。
『ここまでありがとうございました。あなたのお陰で快適でした』と短いお礼を告げてロゼはカインの後を追った。
しかし、城の敷地は広く、先が見えない。
どこが入り口かも分からないわね……。
辺りを見渡しているうちに気付いた。自分が通って来たのが正門ではなく、裏門だということに。
裏門は主に使用人や業者が利用する。主や歓迎する客人を裏門から通すことはほぼない。
裏門から通されたということは歓迎されていないどころか、客人ですらないという意志の表れだ。
「ふふ、さっきの嫌味の仕返しかしら」
自嘲的にロゼは呟く。
ぽたっと頬に冷たいものが落ちて来た。ぽた、ぽたっと頬を濡らし、それらはロゼをより惨めな気持ちにさせた。
気付けば髪も服も肌も、手に持った鞄も地面も冷たい雨に打ち付けられていて、雨は次第に激しさを増していく。
鞄を持つ手から力が抜け、鞄が地面に落ち、倒れた。
どうしてこんなことになったのかな。
母を亡くしたロゼは孤児院で育った。先生や仲間と慎ましいが楽しく暮らしていたが、魔物に襲われ、居場所を失った。そんな時に自分を引き取ってくれたのがアルフレッドだった。
恩に報いようと努力を重ね、容赦のない厳しい修行に耐え、聖女として国のため、人々のために力を尽くしてきた。
アルフレッドが病に倒れ、仕事をさせて貰えなくなった時、もしかしたら私はまた居場所を失うのかもしれないと予感していた。
強い風が木々を揺らし、稲妻が光り、冷たい雨が容赦なくロゼを打ち付ける。
感傷に浸る間もなかったが、ようやく実感した。自分の居場所をまたしても失ってしまったことを。
一人っきりになって絶望が顔を出す。
どうせならもっと早く、こんな場所まで来る前に泣きたかった。
視界を遮るのが涙なのか、雨なのか、もう分からない。
どうすれば良いのかも分からないな……。
そう思った矢先のことだ。




