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第4話 冷徹社長の圧倒的ざまぁと、隠しきれない独占欲

「い、一ノ瀬さん!? どうしてここに……」


私が驚きで声を漏らすと、一ノ瀬さんは私の隣にすっと寄り添い、その大きな手で私の冷たくなった手をそっと包み込んでくれた。


「仕事が早く片付いてな。莉奈が買い物に行くと聞いたから、迎えに来たんだ。……高橋、この不審者どもを今すぐ警備員に引き渡せ。それと、このフロアの防犯カメラの映像を確保しておけ。侮辱罪と恐喝未遂で告訴する」


「かしこまりました、社長。すぐに手配いたします」


後ろに控えていた秘書の高橋さんが冷静にスマホを取り出すと、翔太は一ノ瀬さんの圧倒的なオーラと、聞いたことのある会社のバッジに目を見開いた。


「しゃ、社長……? おい、お前誰だよ! 莉奈に男? ハハッ、冗談だろ、こんな地味でつまらない女に――」


「黙れ、下衆が」


一ノ瀬さんが一歩前に出ると、その凄まじい威圧感と覇気に、翔太と美咲はヒッと短い悲鳴を上げて数歩後ずさりした。あまりの迫力に、周りの野次馬たちも静まり返る。


「俺は一ノ瀬蓮。『イノベーション・ゲート』の代表を務めている。宇野莉奈は、俺が全財産を賭けてでも娶りたいと懇願し、今日から同居している俺の最愛の妻だ」


「は……? イノベーション・ゲートって……あの、今期最高益を出したっていう、あの超大手のIT企業……!?」


翔太の顔から、一きに血の気が引いていく。


それもそのはず、翔太の勤める会社は、イノベーション・ゲートの下請けの下請けにあたる小さなIT系企業だった。


テレビや経済雑誌、ビジネスニュースで何度も目にしたことのある、政財界からも一目置かれる若き天才社長が、いま自分の目の前に立っているのだ。


「お前が莉奈を『華がない』『所帯じみている』と切り捨てた大馬鹿者か」


一ノ瀬さんは、まるで足元のゴミを見るかのような冷淡な目で翔太を見下ろした。


「莉奈の家事スキルはプロ級だ。彼女の作る料理は、五つ星ホテルのシェフすら凌駕する。今日の昼、彼女が作ってくれたお弁当を一口食べた瞬間、俺は彼女を一生離さないと誓った。お前のような、コンビニ飯で舌がバカになった無能な男には、莉奈の価値は一生理解できないだろうな。彼女の料理を食べられなくなったお前のこれからの人生は、さぞ味気ないものになるだろう」


一ノ瀬さんは私の肩を優しく抱き寄せ、自分の胸元へと引き寄せた。

彼の仕立ての良いスーツから、朝と同じ高級なシトラスの香りがして、震えていた私の身体が芯から温まっていくのを感じた。


「な、何言ってるんだよ莉奈! お前、俺を騙して、こんな金持ちと裏で繋がってたのかよ! 汚い女だな!」


往生際悪く怒鳴る翔太に、一ノ瀬さんの目がさらに冷酷さを増す。


「醜悪だな。……莉奈、カードは使ったか?」


一ノ瀬さんは翔太を完全に無視して、私に極上の、甘い微笑みを向けた。

そのギャップに胸が跳ねる。


「あ、はい……これ、お鍋と包丁を買わせていただきました。あと、今夜のローストビーフの材料を……」


「そうか。せっかく限度額なしのカードを渡したのに、買ったのが俺のための調理器具と食材だけとはな。自分のための服はそんな安いワンピース1着か? 本当に……無欲で、愛らしい人だ」


一ノ瀬さんは私の頭を愛おしそうに何度も優しく撫でると、再び冷たい目を翔太へと向けた。


「おい、そこら辺のブランド物で中身のなさを誤魔化している男。莉奈はな、これから俺の資産を使って、お前の年収の何倍もの買い物を毎日する生活になる。お前が莉奈から奪った3年間と、彼女の涙の代償だ。……高橋、この男の会社、我が社のサプライチェーンから完全に外せ。社長の木村氏には、俺から直接連絡を入れておく」


「了解いたしました。木村社長も、このような社員がグループの足を引っ張っていると知れば、即座に処分を下すでしょうね」


高橋さんが淡々と追撃の手を打つ。


「え……!? 待って、待ってください! 社長、それだけは! 俺、来月からプロジェクトのリーダーになる予定で……! 会社をクビになったら、路頭に迷う……!」


青ざめてガタガタと震え、その場に膝をついてすがりつこうとする翔太。そんな彼を見て、隣にいた美咲は「サイテー! 巻き込まないでよ!」と叫んで、翔太を置いて一目散に逃げ出してしまった。


「莉奈ぁ! 莉奈、悪かった! 俺、やっぱりお前の飯が食いたい! 戻ってきてくれ、やり直そう――!」


みっともなく警備員に取り押さえられ、連れて行かれる元カレの声は、モールの雑踏の中に無様に消えていった。


私の心の中にあった重い澱が、すうっと消えていくのが分かった。


買い出しを終え、一ノ瀬さんの高級セダンの中。


私は助手席で、膝の上に新しい赤いお鍋を大事そうに抱えながら、まだ心臓をドキドキと高鳴らせていた。


「あの……一ノ瀬さん。さっきは、助けていただき本当にありがとうございました。でも、あんな嘘までついて……最愛の妻、だなんて……周囲の方も見ていましたし……」


恥ずかしさと申し訳なさで、顔が爆発しそうだ。


すると、ハンドルを握る一ノ瀬さんが、ふっと不敵に、だけどどこか楽しそうに笑った。


「嘘? どこが嘘だ」


「え?」


「実家や周囲に対して、お前は俺の『妻』だと公言する契約だろう。だったら、あの場でああ言うのは当然だ。……それに」


一ノ瀬さんは赤信号で車を止めると、助手席の私の方をぐっと向き、真剣な、射抜くような目で見つめてきた。


「莉奈。俺はお前に一目惚れしたわけじゃない、と昨日言ったが……前言撤回する」


「え……っ?」


「お前の料理は本当に美味い。そして、その美味い料理を、お前は俺のために一生懸命作ろうとしてくれている。こんな魔法のようなカードを渡されて、自分の服じゃなく、俺のための鍋を買うような女性だ。さっきの男のような無能の元に帰すわけがないだろう。契約の1年が終わる頃には、俺が本気でお前を口説き落として、本物の妻にしてみせる。覚悟しておけ」


「あ、う……あ、ううう……」


あまりの直球すぎる言葉の重砲撃に、私の頭はキャパシティオーバーを起こして真っ白になった。


耳まで真っ赤になっていく私を見て、一ノ瀬さんは満足そうに、意地悪く微笑んだ。


「さあ、家へ帰ろう。今夜はローストビーフだろう? 莉奈の作った飯を食べるのが、今の俺の生きがいだ」


元カレに酷い裏切られ方をして、世界で一番不幸だと思っていた私。


だけど、この冷徹で、過保護で、ちょっぴり強引なイケメン社長に拾われた私は――どうやら、とんでもなく愛されてしまう運命らしい。

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