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太刀の炎  作者: いなちお
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第5章:準備

読者の皆さん、こんにちは。次の章では世界の発展についてお話しします。楽しんでいただければ幸いです。

挿絵(By みてみん) 

カン。カン。カン。


 金属を打ち鳴らすような音が、部屋いっぱいに響き渡った。


 アキラはゆっくりと目を開ける。まだ意識はぼんやりとしている。


(目覚まし……?)


 いや、この部屋に時計などなかった。


 再び音が鳴る。先ほどよりも大きく、壁まで震わせるような重い響き。


(サイレンか……? なんなんだここ、本当に軍学校じゃないだろうな)


「うわっ!? なんだよ今の! 起きてる! もう起きてるって!」


 アキラは気だるげな顔のままベッドに起き上がった。昨日の疲れがまだ肩に残っている。乱れたシーツを整えると、そのまま洗面所へ向かう。


 一方のウリュウは、ひとり文句を言いながら着替えを始め、荷物につまずいては騒いでいた。


 慌ただしい朝だった。


 隣室の声までははっきり聞こえない。それでも廊下の気配だけで分かる。急ぐ足音、開閉する扉、重なる話し声。食堂へ向かう者、授業前に鍛錬へ出る者――皆が一斉に動き始めていた。


 東城学園が設立されたのは、過去の戦争と、新世代の《オーラ》能力者の出現がきっかけだった。


 それ以来、オーラは単なる異常現象ではなく、国家を左右する戦力として扱われるようになった。


 若者は国の未来を担う存在である。だが今はそれ以上に、世界情勢の緊張と国家主権を巡る争いが極限まで高まっていた。


「行くぞ、ウリュウ」


「おう」


 十分ほど歩くと、学院の本館へと辿り着く。そこには会議室や教室が集まっていた。


 外廊下はすでに多くの生徒で賑わっている。教室へ入る者たちは皆、同じ制服姿だった。濃緑の長袖シャツ、胸元の小さなポケット、革ベルト。女子は茶色のチェック柄スカート、男子は同柄のスラックスを着用している。


「この配色と柄、全然目立たないつもりがないよな」


 ウリュウが呟く。


「……どういう意味だ?」


 アキラにはよく分からなかった。


 二人は教室の扉の前に立つ。そして中へ足を踏み入れた瞬間、アキラは視線の集中を感じた。


 ――だが、それは彼に向けられたものではない。


 エリカが、すでにそこにいた。


 窓際の席に静かに座り、背筋を伸ばし、片腕を机に置き、頬杖をつきながら外を眺めている。昨日のように自ら目立とうとしているわけではない。なのに、自然と周囲の視線を集めていた。


 教室の前方には数人の生徒が座り、別の者たちは立ったまま話している。


「やっぱりあの子か……」


「例の留学生……」


「本当にプレゼンスなのかな……」


 エリカは反応しない。まるでそこにいないかのように、淡々と窓の外を見つめていた。


 だがその瞳が、ほんの一瞬だけ動く。


 そしてアキラと目が合った。


 ほんの刹那。だが、それで十分だった。


(……まだ見てる)


 アキラは視線を逸らし、教室中央付近の席へ向かう。ウリュウの隣に腰を下ろすと、彼も先ほどまでの騒がしさが嘘のように静かになり、授業開始を待っていた。


 数分後には全席が埋まり、生徒たちはそれぞれの席についた。


 教室は近代的な造りだった。


 白い黒板は電子式で、天井にはプロジェクター。座席は段差状に並び、後方の高い位置にはアナログ時計まで掛けられている。


「見た目は普通だけど、意外と設備いいな」


 そう呟いた直後、教室の扉が開いた。


 硬い軍靴の音が、床を打ちながら近づいてくる。


 入ってきたのは、長身で厳格な雰囲気を纏う男だった。制服は隙なく整えられ、表情にも一切の緩みがない。


 教壇中央の小さな白い机の前へ立つと、男は何も言わず、最前列の端に座る生徒を見た。


 見られた生徒は喉を鳴らし、すぐに意図を察する。


「起立!」


「礼!」


「着席!」


 一斉に声が揃い、全員が男へ礼をした。どうやら彼が、このクラスの担当教官らしい。


「おはよう。俺は六織タカオ。このユニットが正式なチームを組むまで、指導を担当する」


 彼は机の前へ立ち、すぐに本題へ入った。


「まずはここまで辿り着いたことを祝おう。諸君らが背負う役目は既に理解しているだろうが、改めて確認する」


 言い終えると、六織は一度手を打った。


 直後、陽光に満ちていた教室が暗くなる。カーテンが一斉に閉じられたのだ。


 天井のプロジェクターが起動し、白いボードに東城学園の紋章が映し出される。六織の手には小型のリモコンが握られていた。


「東城学園は、《オーラ》に目覚めた若者たちが、日本の主権を守るために育成される場所だ」


「七十年前の戦争後、大量破壊兵器による悲劇を避けるため、我々は多くを失い、主権も制限された」


 映像が切り替わる。そこには日本の皇帝、ドイツの将軍、イタリアの司令官らが並ぶ停戦協定の記録写真が映っていた。


「この協定を結ぶまでの道は平坦ではなかった。多くの制約を課されたが、同盟国との結束により、我々の経済は急速に復興した」


 次のスライドには、戦後の発展を示すグラフと技術革新、そして《オーラ》発現者の統計が映し出される。


「だが、真の転機は別にあった」


「――諸君らの誕生だ」


 教室の空気がわずかに張り詰める。


「《オーラ》は、日本の敵と戦う力をもたらした。外国勢力、犯罪組織、テロリスト……あらゆる脅威に対抗するための力だ」


「諸君らは今後、その力を鍛え、ユニットの仲間と共に様々な任務へ赴くことになる」


 再び画面が切り替わる。


「そして今週、ユニットF4の諸君には適性評価を行う。五日後、チーム編成を兼ねた模擬戦を実施する」


 次のスライドには大きくこう記されていた。


《任務成功の鍵はチームの連携にある》


「性格の衝突はあって当然だ。だが、任務の前では私情を捨てろ」


 六織がもう一度手を打つ。


 カーテンが開き、朝の光が教室へ戻ってきた。


「以上だ。時間割と訓練予定はメールで送ってある。全員、端末は持っているな?」


 アキラはポケットから折りたたみ式の携帯電話を取り出す。画面には東城学園から届いた通知が表示されていた。


「うわ……予定ぎっしりだな。ほとんど休みないぞ」


 ウリュウも自分の端末を見ながら顔をしかめる。


「一応、丸一日休める日があるだけマシか。休めれば、だけど」


 アキラも苦い顔で頷いた。


 その時、前の席から声が飛んでくる。


「ちっちっち。君たち、ずいぶん軟弱だね。そんなことでどうするのさ――」


 だが、その言葉は途中で遮られた。


「なあアキラ、俺の待ち受け見てくれよ。いいだろ?」


「お、ほんとだ。どうやって変えるんだ? ていうかこのアイドル誰?」


「ちょっと、無視しないでよ!」


 前の席に座っていた少女が、机を叩いて抗議した。


「いい? 私は星崎ミオ。君たちも少しは学園に敬意を払って、立派な兵士になる努力をしなさい」


 腕を組み、目を閉じ、横を向いたまま偉そうに言い切る。


「誰だ、この人」


 アキラがぼそりと呟く。


「知らない。でも面白いな。よろしく、ミオちゃん。俺は羽生ウリュウ」


「み、ミオちゃん!?」


 顔を真っ赤にして、ミオはウリュウの机に身を乗り出した。


 黒髪のポニーテールが揺れる。ユニット内でもかなり小柄な部類だ。


 ウリュウは楽しそうに笑いながら、さらに話しかけている。


 その横で、アキラは五日後の模擬戦のことを考えていた。誰と戦うのか。どんな相手なのか。胸の奥が自然と熱くなる。


 教室のあちこちでも会話が生まれ、新しい繋がりができていく。


 ただ一人を除いて。


 エリカだけは誰とも話さず、静かに席を立つと、階段を下りて次の授業へ向かった。


 アキラはその背を目で追う。


 無口で近寄りがたい印象があるのかもしれない。だがその美しさと独特の雰囲気ゆえに、男女問わず注目を集めていた。


「どうした、アキラ? さっきからクリガーさん見てただろ。気になるのか?」


「たしかにエリカさん、すごく綺麗で素敵だよね。でも、なんだか遠い感じがする。友達になれたらいいのに」


 二人が好き勝手に言う中、アキラの返答は別の意味で意外だった。


「いや――あの子、すごく面白い」


「は?」


 ウリュウとミオが同時に固まる。


 そこから二人は一気に身を乗り出し、いつ知り合ったのか、好きなのか、何が面白いのかと質問攻めを始めた。


 アキラは立ち上がり、二人へ声をかける。


「次の教室、行くぞ」


 そうして三人は、他の生徒たちと共に次の授業へ向かった。

どうやら、最初の表紙を使って全10章を書かなければならないようだ。 (もし誤字脱字などがありましたら、Xの箇所にコメントを送っていただくか、この章自体にコメントを投稿していただければ幸いです。)

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― 新着の感想 ―
Xの方から伺わせていただきました! 読ませていただいた印象として、作者様の書きたいものを軸に据えた作品かと思います。 おそらく序盤である今の所は地の文の説明っぽさ、解説っぽさ、それに注力している感じ…
第1〜6話、読ませていただきました。 主人公のアキラが突然置かれた過酷な環境の中で戸惑いながらも、一歩ずつ前へ進もうとする姿がとても印象的で、読んでいるうちに自然と応援したくなる作品でした。学園・魔法…
過酷な学園生活になりそうで面白いですね。
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