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太刀の炎  作者: いなちお
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第6章:解答

読者の皆様、こんにちは。新しい章をお楽しみいただければ幸いです。ぜひご感想をお聞かせください。

挿絵(By みてみん)

  学園の時間割は、想像以上に厳格だった。授業時間も移動経路も細かく定められ、隙間らしい隙間がほとんどない。


 数学、国語、生物、歴史といった一般科目に加え、午後からは体力訓練、近接戦闘、オーラ制御、そして《戦術学》が組み込まれていた。


(戦術学、か……暗号や戦略理論まで含まれていそうだな。本当に兵士を育てるための機関なんだ)


 アキラは、自分がこれから学ぶべきものの多さに思わず息をついた。


 毎朝、六織教官による指導の後、それぞれ専門教室へ移動して授業が始まる。


 次の授業は、《戦術学》だった。


「暗号とは、歴史上もっとも多く用いられてきた武器の一つだ。情報こそ、大規模戦争における最大の力と言える」


 壇上に立つ東山教官が、静かな声で語り始める。


 この分野に馴染みのある生徒は少ない。多くは、戦争とは武力と兵器だけで決するものだと考えていた。


「暗号の解読は、最悪の事態を招く。味方の進軍ルート、補給地点、作戦内容……秘匿すべき情報が露わになるからだ。逆に、敵の情報を奪うこともまた可能になる」


 東山はスライドを映し出し、ある暗号文を提示した。


「では、これを各自で考えてみろ」


 画面には簡素な文字列が並ぶ。


「これは《シーザー暗号》だ。単純な試行錯誤によって破られた、古典的な暗号方式でもある。暗号は単純であればあるほど、いずれ無力化される」


 そう言うと、教官は教室最後列へ視線を向けた。


「クリガーさん。この暗号の仕組みを説明してみなさい」


 エリカはゆっくりと立ち上がる。数秒だけ思考し、淀みなく答えた。


「文字を一定数ずらして別の文字へ置き換える方式です。たとえば三文字分ずらすなら、“A”は“D”になり、“B”は“E”になります。復号する際は逆方向へ同じ数だけ戻せば、元の文章を再現できます」


 教室中の視線が彼女へ集まり、やがて再び教官へ戻る。


 東山は小さく頷いた。


「その通りだ。では、その説明を踏まえて――」


 今度は別の生徒が指名される。


「羽生くん。画面の英文を読んでみなさい」


 投影された文字列は、ローマ字の羅列だった。


《Omrk Géwiv》


(普通なら少し厄介だな。ローマ字圏じゃない俺たちには、英語の知識も必要になる。でも、ウリュウなら――)


 ウリュウは立ち上がると、迷いなく答えた。


「“King Caesar”です。日本語なら『キング・シーザー』ですね」


「よろしい。座っていい」


 ウリュウが席へ戻ると、アキラは無言で拳を差し出した。


 ウリュウも笑いながら拳を合わせる。


 東山はプロジェクターを切り、教室に再び明るさが戻った。


「今の暗号は、現代基準では初歩的なものだ。とはいえ、外国語の知識、文章の分析、翻訳、そして再構築――そうした工程を要する。諸君が学ぶべきことは、その何倍もある」


 基礎的な暗号理論の説明を終えると、授業は次の話題へ移った。


 ――情報を得る手段。すなわち、潜入工作である。


「己を知り、敵を知れば、百戦して危うからず」


 東山はそう言って黒板に向き直る。


「自分の戦力、敵の規模、装備、地形、味方の状態。あらゆる要素を見極め、必要な情報を奪う。それが任務の本質だ」


「覚えておけ。任務は、隊員全員が死亡しない限り失敗ではない。生きている者がいるなら、遂行の可能性は残る」


 続いて、東山は黒板へ大まかな地図を描き始めた。


 棒人間で描かれた兵士たち。森の中にある基地。監視塔、倉庫、複数の建物。雑ながらも状況は十分に伝わる。


「では、仮定の任務だ」


「君たちが必要とする機密資料は、森林地帯にある敵基地の内部に保管されている。木々は深く、視界は悪い。基地内外には重武装の兵士が巡回している。目的は資料の奪取のみ。余計な交戦は不要だ」


 教官はチョークを置き、アキラを見た。


「東間くん。君ならどう動く?」


 突然の指名に、教室の視線が一斉に集まる。


 アキラは腕を組み、思考を巡らせた。


(難しいな……一人なら制服でも奪って潜入する、とか……いや、映画の見すぎだろ俺)


 目を閉じ、もう一度整理する。


 そして、教官へ問い返した。


「この規模の任務は、四人編成が基本……そういう前提でいいですか?」


「その通りだ」


 必要な条件は揃った。


 アキラは立ち上がり、はっきりと答える。


「最小限の危険で情報を回収するなら、四人の役割を明確に分けます。偵察、情報処理、支援、そして自分を含めた現場指揮です」


「まず、敵の巡回経路、時間帯、死角、警備の癖を観察します。そのうえで、最も露見しにくい侵入経路を選び、資料保管地点だけを狙う」


「優先するのは隠密行動、継続的な連携、そして危険度が増した場合の撤退判断です。資料を確保した後は、事前に決めた退路から即時離脱。合流地点もあらかじめ設定し、想定外の事態に備えて代替案も用意します」


「敵を倒すことが目的ではありません。任務を、安全かつ確実に成功させることが目的です」


 教室が静まり返る。


 東山は興味深そうに目を細めた。


「見事な分析だ、東間くん。では――もし仲間の一人が取り残された場合は?」


 一瞬だけ、アキラの呼吸が止まる。


 だが、その瞳の熱は揺るがなかった。


「……自分が残ります」


 真っ直ぐ前を見据え、言い切る。


「残された仲間は必ず助ける。他の三人まで危険に晒すことはしません」


 東山はその答えを受け止め、しばし沈黙した。


(この少年……内側に、激しい炎を持っている)


「着席していい、東間くん」


 アキラは腰を下ろし、小さく息を吐いた。


 ウリュウは感心したように頷き、エリカはかすかに笑って再び窓の外へ視線を戻す。


(東間くんも、クリガーさんも、すごく格好いい……羽生さんもだけど)


 振り返りながらそんなことを考えていたミオは、ひとりで胸を熱くしていた。


 やがて授業は終わりを迎え、チャイムが鳴る。


 昼休みだった。


 アキラ、ウリュウ、ミオの三人は連れ立って食堂へ向かう。


 ――だが、そこは普通の学校の食堂とは、まるで違っていた。

次の章は小規模な衝突になりますが、今後の章ではもっとアクションや戦闘が増えることをお約束します。

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