風邪予防に本気を出す
初プールが無事に終わった翌日。
園内には、どこか満足感の残る空気が漂っていた。
「きのう、たのしかったね」
「えんちょー、みずつよかった」
「またやりたい!」
その声を聞きながら、魔王は腕を組んでいた。
楽しさの裏に、必ず気をつけなければならないことがある。
「……その前にだ」
園児たちを集め、魔王は真剣な顔で言った。
「水遊びのあと、何が大事かわかるか」
「おやつ?」
「おひるね?」
魔王は、首を横に振る。
「体を、冷やしすぎないことだ」
保育士たちが、タオルや着替えを準備し始める。
魔王は率先して動いた。
濡れた足を拭く。
髪をしっかり乾かす。
首元にタオルをかける。
一人一人、丁寧に。
「えんちょー、ふくのじゅんばん、まちがえてる」
「……そうか。教えてくれ」
訂正されながらも、魔王は真剣だ。
「風邪をひくと、遊べなくなる」
「いやだー!」
その一言で、園児たちの意識が一気に変わる。
「ちゃんとふく!」
「かわかす!」
保育士が小声で言う。
「園長先生、完璧なお母さんみたいです」
「……母、とは難しいな」
だが、否定はしなかった。
午後は、いつもよりゆっくり過ごす時間になった。
絵本を読み、体を休める。
魔王は読み聞かせをしながら、園児たちの顔色を確認する。
少しでも様子がおかしければ、すぐ気づけるように。
「えんちょー、きょうはしずかだね」
「体を休める日も、必要だ」
その言葉に、園児たちは素直にうなずいた。
夕方。
誰も熱を出さず、誰も咳をしない。
魔王は、静かに息を吐いた。
「……守れたな」
水遊びは楽しい。
だが、その後まで守ってこそ、本当の勝利だ。
魔王は、また一つ園長としてのレベルを上げていた。




