保護者対応に挑む
お迎えの時間。
園の門の前は、夕方特有の慌ただしさに包まれていた。
仕事帰りの保護者、走り出す園児、靴を左右逆に履いて泣き出す子。
毎日の光景だが、魔王にとっては未だに緊張する時間帯でもある。
その中で、一人の保護者が少し硬い表情で立ち止まった。
「園長先生、少しお時間よろしいですか」
その声に、保育士たちが一斉に視線を送る。
この園で「少しお時間」は、たいてい少しでは終わらない。
「もちろんだ」
魔王は低く答え、職員室へ案内する。
椅子に座った保護者は、手をぎゅっと組んだまま話し始めた。
「今日、うちの子が……泣いて帰ってきまして」
魔王は、黙ってうなずく。
途中で遮らない。
それが、園長としての戦い方だと、最近ようやく学んだ。
「おもちゃのことで、ケンカをしたみたいで」
「……そうか」
午後の出来事が、すぐに思い浮かぶ。
「園では、ちゃんと見ていただいているのか、不安で」
言葉は柔らかいが、内側には心配が詰まっている。
魔王は背筋を正した。
「確かに、ケンカはあった」
「……」
保護者の肩が、わずかに強張る。
「だが、最後は二人で話し合い、一緒に遊んで終わった」
「話し合い……?」
魔王は、砂山の話を丁寧に説明した。
誰が何を思い、どう決めたのか。
保護者の表情が、少しずつ緩んでいく。
「帰り際には、笑っていました」
「そう、なんですね」
しばらく沈黙が流れたあと、保護者は小さく息を吐いた。
「……ちゃんと向き合ってもらえたなら、安心です」
魔王は深く頭を下げる。
「大切なお子さんを預かっている。軽く扱うことは、決してない」
その言葉は、飾りではなかった。
かつて世界を預かっていた者としての、重みがあった。
職員室を出ると、ちょうど園児が駆け寄ってくる。
「えんちょー!ばいばい!」
「またあした!」
魔王は、その頭をそっと撫でた。
「気をつけて帰れ」
門の外で、先ほどの保護者が振り返り、軽く頭を下げる。
魔王も、同じように返した。
その日の業務が終わり、園が静かになる。
魔王は一人、園庭を見渡す。
世界征服よりも、よほど神経を使う。
だが、その分、守る価値がある。
そう思いながら、魔王は明日の予定を確認した。
園長の仕事は、まだまだ続く。




