地域祭りと、覚えのある気配
その日は、園児たちが朝から落ち着かなかった。
「きょう、おまつり!」
「えんちょーもいくんでしょ!」
地域交流イベント。
つまり、商店街の小さな祭りだ。
園の旗を持ち、先生と園児が並んで歩く。
マオは最後尾で、全体を見渡していた。
「……視線が多い」
気のせいではない。
すれ違う大人たちが、二度見、三度見をしている。
背が高い。
無駄に威圧感がある。
しかも無表情。
子どもたちは可愛い。
だが、その後ろに控える園長が問題だった。
屋台が並び、太鼓の音が鳴る。
園児たちは一斉に走り出しそうになるのを、先生に止められる。
「順番ですよー!」
マオは射的の前で立ち止まった。
「……これは、武器か」
「ちがうちがう!」
園児が即座に否定する。
「おもちゃ!」
撃つ。
当たる。
的が全て倒れる。
屋台の人が、目を丸くした。
「……え、全部?」
「運がよかっただけだ」
嘘だった。
次はヨーヨー釣り。
次は金魚すくい。
次は輪投げ。
どこへ行っても、マオがやると終わる。
「えんちょー、つよすぎ!」
「もうやっちゃだめ!」
ついには、先生に止められた。
そのときだった。
背中に、ぞわりとした感覚が走る。
振り向くと、少し離れた場所に、フードを被った男が立っていた。
人混みに紛れているが、その気配は異質だった。
魔力。
微弱だが、確かに知っている。
「……まさか」
マオが一歩踏み出すと、男は人波の中へ消えた。
追うべきか、一瞬迷う。
だが、すぐに足元を引っ張られた。
「えんちょー!わたあめ!」
園児が、満面の笑みで見上げている。
マオは、立ち止まった。
「……後だ」
今は、こちらが優先だ。
祭りの終わり、園に戻る道すがら、マオは何度も振り返った。
だが、あの気配はもうない。
職員室で、一人になる。
「……まだ、生きている者がいるか」
魔王だった過去は、確かに終わったはずだった。
だが、完全に消えたわけではない。
窓の外では、園児たちが今日の祭りを絵に描いている。
屋台、風船、そして、やたら大きく描かれた自分。
マオは、静かに息を吐いた。
「……問題は、先送りだな」
だが、その声には、以前ほどの迷いはなかった。
ここには、守るものがある。




