知らない大人の訪問
朝の開園準備をしていると、門の外に見慣れない影があった。
背広姿の男。
書類鞄を抱え、園の看板をじっと見ている。
「……何者だ」
マオは自然と警戒した。
敵意は感じないが、厄介な予感はする。
門を開けると、男はすぐに頭を下げた。
「突然失礼します。市役所から参りました」
その言葉に、マオの眉がわずかに動く。
「保育園の運営状況について、少しお話を」
役所。
魔王にとって、未知の勢力だ。
応接スペースに通し、麦茶を出す。
男は書類を整えながら、穏やかな声で続けた。
「最近、こちらの園の評判がよくてですね」
「……問題があるという話ではないのか」
マオは率直に聞いた。
男は苦笑する。
「いえ、その逆です。ただ、園長先生が少し……個性的だと」
その言葉に、マオは内心で頷いた。
否定はできない。
話は、補助金、書類、研修、地域連携。
聞き慣れない単語が次々と出てくる。
「……つまり、何をすればいい」
単刀直入に問う。
男は、一枚の紙を差し出した。
「まずは、地域交流イベントへの参加ですね」
地域。
外の世界。
マオは紙を見つめ、静かに息を吐いた。
「……戦闘では、ないな」
「え?」
「いや、何でもない」
応接の窓から、園庭が見える。
園児たちが走り回り、先生がそれを追いかけている。
この場所を、守るためなら。
「分かった。参加しよう」
そう答えた瞬間、男の表情が明るくなった。
門の外の世界が、少しだけ近づいた朝だった。




