夜まで続く、発熱対応
昼下がり、園内に少しだけ緊張が走った。
「園長、〇〇ちゃん、熱が少しあります」
先生の声は落ち着いているが、慎重だった。
マオはすぐに立ち上がる。
額に手を当てると、確かに熱い。
「……休ませる」
保健室に布団を敷き、静かな場所に移す。
園児は不安そうに、服の裾を握っていた。
「おうち、かえる?」
「連絡はする。だが、迎えまで少し時間がある」
その言葉に、唇が小さく震える。
「ひとり?」
マオは、即座に首を横に振った。
「我がいる」
それだけで、少し安心したようだった。
電話で状況を伝え、迎えを待つ。
だが、仕事の都合ですぐには来られないという。
夕方が近づく。
他の園児たちは帰り、園内は静かになった。
マオは椅子に座り、そばを離れない。
熱を測り、水分を取らせ、布団を整える。
眠ったかと思えば、目を覚まして小さく泣く。
理由は分からない。
体調が悪いと、それだけで心細くなる。
「……怖いか」
園児は、小さく頷いた。
マオはしばらく黙ってから、ぽつりと言った。
「我も、弱ったときは……誰かがそばにいた」
嘘ではない。
部下ではなく、ただの存在として。
「だから、今は我がそばにいる」
園児は、その言葉を抱きしめるように、目を閉じた。
夜。
迎えが来たとき、母親は何度も頭を下げた。
「遅くなってしまって……本当にありがとうございます」
マオは首を横に振る。
「役目だ」
だが、それだけではないことを、自分でも分かっている。
園の灯りを消し、鍵をかける。
夜の空気が、ひんやりと頬に触れた。
「……何も起きなかった」
それが、何よりだ。
魔王だったころ、夜は戦いの時間だった。
今は、守るための時間だ。
その違いを噛みしめながら、マオは静かな道を歩いて帰った。




