健康診断という名の地獄
その言葉を聞いた瞬間、マオの背筋が凍った。
「来週、園児の健康診断があります」
会議でさらりと告げられた一言。
だが、マオの脳内では警鐘が鳴り響いていた。
健康診断。
それはつまり、医者が来る。
白衣を着た、目が鋭い存在が。
「……我も、受けるのか」
ぽつりと呟くと、先生たちが一斉にこちらを見る。
「園長も職員ですから」
「一応、形式上」
形式上。
その言葉が、なぜか恐ろしい。
魔王だったころ、毒も呪いも効かなかった。
だが聴診器と体温計は、未知の武器だ。
当日。
園児たちは、なぜかテンションが高い。
「おなか、きいてもらう!」
「せんせー、ちっくんある?」
マオは廊下の端で腕を組み、全体を見守っていた。
表情はいつも通りだが、内心は落ち着かない。
順番が回ってくる。
白衣の医師が、穏やかな笑顔で言った。
「では園長先生もどうぞ」
椅子に座る。
背中に聴診器が当てられた瞬間、魔力が反射的に揺れた。
「……む?」
医師が首を傾げる。
「心音が……妙に力強いですね」
「そうか」
それ以上は言わない。
言えない。
次は血圧。
数値を見て、医師が沈黙する。
「……お元気そうで、何よりです」
それ、誤魔化しているな、とマオは察した。
最後に身長と体重。
園児たちが、カーテンの隙間から覗いている。
「えんちょー、おおきい?」
「つよい?」
マオは一瞬考えてから、答えた。
「……平均だ」
嘘だった。
診断が終わると、マオは廊下で深く息を吐いた。
「生還した」
先生が笑う。
「園長、それ健康診断です」
午後。
園児の一人が、絆創膏を貼った腕を見せてきた。
「えんちょー、ちょっといたかった」
マオは屈み込み、真剣な顔で言う。
「よく耐えた」
その言葉に、園児は誇らしげに胸を張る。
マオはその様子を見て、胸の奥が温かくなるのを感じた。
怖いものがあっても、向き合う。
それは、魔王にも、子どもにも、同じなのかもしれない。




