泣き止まない午後
その子は、昼寝の時間になっても泣き止まなかった。
いつもなら、布団に入るころには自然とまぶたが落ちる。
それなのに今日は、顔を真っ赤にして、声が枯れるまで泣いている。
「……どうした」
マオは、そっと声をかけた。
だが、返事は嗚咽だけだった。
先生たちが抱き上げても、背中を撫でても、涙は止まらない。
理由も分からない。
痛いところも、熱もない。
ただ、泣いている。
マオは、布団の横に腰を下ろした。
目線を合わせるように、しゃがむ。
「……泣くのは、禁止していない」
その言い方に、先生が思わず噴き出しそうになる。
だが、園児は一瞬だけ、泣くのを止めた。
「かなしいの?」
マオは首を横に振った。
「分からない」
正直な答えだった。
「理由が分からなくても、泣くことはある」
そう言うと、園児の肩が小さく震えた。
また涙が溢れるが、さっきより声は小さい。
マオは、ゆっくりと言葉を選ぶ。
「昔、我も……泣いた」
その瞬間、先生たちがぴくりと反応する。
だが、マオは気づかない。
「何が悲しいか分からず、ただ……苦しかった」
魔王だったころ、弱さは許されなかった。
泣くことは、敗北だった。
「だから、泣いている者を見ると……どうすればいいか、分からなかった」
園児は、じっとマオを見ていた。
涙で濡れた瞳が、まっすぐ向けられる。
「えんちょーも、ないた?」
「ああ」
即答だった。
それが、救いになったのかもしれない。
園児は、ぎゅっと布団を握りしめ、少しずつ声を落としていった。
泣き声が、やがて小さな寝息に変わる。
マオは、しばらくその場を動かなかった。
眠った顔は、あまりにも無防備で、柔らかい。
「……守る、か」
ぽつりと零れた言葉は、誰にも聞かれなかった。
午後の光が、カーテン越しに差し込む。
穏やかな時間が、ようやく戻る。
マオは立ち上がり、先生に小さく頷いた。
「起きるまで、見ていよう」
その背中は、以前より少しだけ、人間に近づいていた。




