はじめての保護者面談
保育園に、いつもと違う空気が流れていた。
園児たちは落ち着かず、先生たちもどこかそわそわしている。
理由はひとつ。
今日は保護者面談の日だった。
「……戦より緊張する」
マオは職員室の椅子に深く腰掛け、腕を組んだ。
机の上には面談表と、先生たちが用意してくれたメモ。
・最近の様子
・園での友だち関係
・気になる点
文字を追うだけなのに、妙に疲れる。
「園長、そんな怖い顔しなくても大丈夫ですよ」
先生の一人が苦笑しながら声をかける。
マオは即座に否定した。
「怖がってなどいない。警戒しているだけだ」
そのとき、チャイムが鳴った。
最初の保護者が入ってくる。
緊張した面持ちの母親と、少し後ろに隠れるような園児。
マオは姿勢を正した。
「……どうぞ。お掛けください」
声が低すぎたかもしれない、と内心で反省する。
面談は、意外にも穏やかに進んだ。
家での様子、園での変化、ちょっとした悩み。
マオは一つ一つ、真剣に聞いた。
余計なことは言わず、だが誤魔化しもしない。
「最近、自分から準備をするようになりまして」
そう言われた瞬間、マオは思い当たる節があった。
「……園では、靴を揃えるところから教えています」
それだけのことだ。
だが、母親の表情がぱっと明るくなる。
「ありがとうございます」
その一言が、胸に残った。
面談が進むにつれ、マオは気づく。
ここは、力で支配する場所ではない。
話を聞き、寄り添う場所だ。
最後の面談が終わった頃には、外はすっかり夕方だった。
椅子にもたれ、息を吐く。
「……生き残った」
先生たちが笑う。
「園長、それ褒め言葉じゃないです」
マオは小さく首を傾ける。
「だが、悪くはない日だった」
そう言って立ち上がり、窓の外を見る。
園庭には、夕日に照らされた遊具が並んでいる。
明日もまた、子どもたちがここで笑う。
そのためなら、この程度の緊張など、いくらでも耐えられる。
魔王は今日も、少しだけ成長した。




