反省会という名の自慢大会
翌朝。
保育園は、夏祭りの余韻を引きずったまま始まった。
登園してくる園児たちは、玄関をくぐるなり昨日の話で大騒ぎだ。
「えんちょー!ぼく、しゃてきぜんぶあてた!」
「わたしね、きんぎょ、にひき!」
「ヨーヨー、いっこ、われちゃった!」
マオは靴箱の前でしゃがみ込み、次々と報告を受けていた。
一人ひとりに視線を合わせ、うん、と頷く。
「全部聞く。順番だ」
そう言っているのに、園児たちは構わず被せてくる。
声はどんどん大きくなり、ついには誰が一番楽しかったかで言い争いになった。
朝の会が始まり、先生の一人が言う。
「じゃあ今日は、昨日の夏祭りの反省会をしましょう」
その言葉に、園児たちは一瞬だけ静かになり――。
「はんせいってなに?」
「じまんたいかいでしょ?」
一斉に、手が上がった。
反省会は、完全に自慢大会になった。
絵に描いた屋台、金魚、ヨーヨー、そしてなぜか巨大化して描かれるマオ。
紙いっぱいに描かれたクレヨン画が、次々と壁に貼られていく。
「えんちょー、すべりだいでころんだ!」
「ころんでない!」
マオは即座に否定するが、園児たちは楽しそうに笑う。
「えんちょー、はしゃぎすぎ!」
「……安全確認は怠っていない」
そう言いながらも、声の端が少し弱い。
先生たちがくすくす笑う中、マオは壁の絵を眺めた。
どれも歪で、色もはみ出しているが、不思議と目を離せない。
昼前、園児たちが外遊びに出たあと、マオは一人で保育室に残った。
壁に貼られた絵の前に立ち、じっと見つめる。
そこに描かれている自分は、笑っていた。
大きく口を開け、子どもたちに囲まれている。
「……似合わんな」
呟いた瞬間、胸の奥がわずかに軋んだ。
魔王だったころ、自分の名を呼ぶ声は恐怖か憎しみだけだった。
称賛も忠誠もあったが、それは力へのものだ。
今は違う。
名前を呼ばれ、袖を引かれ、転べば笑われる。
その落差に、ふと影が差す。
もし、過去を知ったらどうなる?
この園を、子どもたちを、守れるのか。
一瞬だけ、魔力が無意識に揺れた。
そのとき、窓の外から声が飛んできた。
「えんちょー!みてー!」
「だんごむし、いっぱい!」
マオははっとして、魔力を完全に抑える。
窓際に近づくと、園児たちが地面にしゃがみ込み、団子虫を囲んでいた。
「……行く」
外に出ると、園児の一人が得意げに言う。
「えんちょー、だっこしてあげる!」
逆だ、と言いかけて、マオは口を閉じた。
代わりに、ゆっくりとしゃがむ。
「触るときは、優しくしろ」
その声は、さっきまでの影を完全に消していた。
園庭には、笑い声が戻る。
マオはその中に立ち、昨日と同じように、今日も魔王であることを忘れる。
過去は消えない。
だが、今はここにいる。
それでいい、と心のどこかで思いながら。




