想定外の前日リハーサル
夏祭り前日。
ゆるふわ保育園は、朝からいつも以上ににぎやかだった。
園児たちは登園するなり、園庭に並んだ屋台や提灯を見て目を輝かせる。
昨日までとは違う景色に、そわそわが止まらない。
「ほんとにお祭りみたい!」
「もう始まるの?」
今日は前日リハーサル。
流れの確認と、安全チェックを目的とした最終練習……のはずだった。
マオは腕を組み、全体を見渡す。
「よし。今日は確認だけだ。走らない、押さない、無理をしない」
「はーい!」
元気な返事が返ってくるが、信用はできない。
案の定、開始五分で想定は崩れた。
ヨーヨー釣りでは、順番待ちが待てずに列がぐにゃっと曲がる。
射的では的より先に友だちを狙う子が現れ、わなげは輪より人が飛び交っている。
「園長ー!もう一回!」
「次こっち!」
マオは一人ひとりに声をかけ、流れを戻そうとするが、笑顔と勢いが止まらない。
それでも、不思議と危険な空気はなかった。
誰かが転びそうになると、すぐ近くの子が手を伸ばす。
泣きそうになる前に、別の笑い声がそれを包み込む。
マオはその様子を見て、ふと気づく。
完璧に整えなくても、ちゃんと成り立っている。
途中、屋台の裏で紙袋が破れ、お面が散乱する事件も起きた。
園児たちは一斉に拾い始め、なぜか全員が違うお面をかぶり出す。
「誰かわかんなーい!」
「園長もつけて!」
差し出されたのは、ひょっとこのお面だった。
マオは一瞬迷い、そして静かにかぶる。
次の瞬間、園庭が爆笑に包まれた。
「園長、へん!」
「でもかっこいい!」
マオは何も言わず、お面のまま腕を組む。
その姿がさらに笑いを誘った。
リハーサルが終わるころ、園児たちは少し疲れつつも満足そうだった。
「明日が本番だよね」
「ぜったい楽しいよ」
マオはその言葉を聞き、ゆっくりとうなずく。
「……ああ。全力で守ろう」
夕方、園児たちが帰り、園は静かになる。
残ったのは、整えられた屋台と、少し歪んだ提灯。
完璧ではない。
だが、それでいい。
魔王は園庭の中央に立ち、明日の光景を思い描いた。
笑い声、走る足音、にぎやかな夜。
「……本番は、きっと想定外だらけだな」
そう呟きながらも、その口元はわずかに笑っていた。




