屋台練習と大混乱
夏祭り準備は次の段階へと進んだ。
この日は園庭に簡易テントが立てられ、屋台の練習が行われることになった。
ヨーヨー釣り、わなげ、紙コップ射的。
本番前に、園児たちにも体験させて流れを確認する予定だった……はずなのだが。
「いらっしゃいませー!」
「こっち空いてるよー!」
始まった瞬間から、園庭はすでにお祭り本番のような騒がしさだった。
園児たちは店員役とお客さん役を入れ替わり立ち替わり演じ、テンションは最高潮。
マオは腕を組み、全体を見渡す。
「……想定より、三倍は元気だな」
まず問題が起きたのはヨーヨー釣りだった。
ゴムが絡まり、水槽に手を突っ込みすぎて袖がびしょ濡れになる子が続出する。
「園長ー!取れないー!」
「よし、こうだ」
マオが見本を見せようとすると、うっかり力を入れすぎ、ヨーヨーが勢いよく跳ねた。
空中を舞ったヨーヨーは、となりの射的コーナーへ一直線。
「わっ!」
「飛んできたー!」
射的の的が倒れ、紙コップが転がり、なぜか全部まとめて成功扱いになる。
園児たちは拍手喝采だ。
次はわなげ。
順番を守るはずが、全員が同時に輪を投げ始め、輪は空を飛び交う。
「園長、避けてー!」
マオは反射的に身をかわし、くるりと回転。
その動きがかっこよすぎて、今度は園児たちが真似をし始める。
「こう?」
「違う、こうだよ!」
園庭は完全にダンス会場のようになってしまった。
先生たちは慌てて声をかけるが、笑いをこらえきれない。
サクラ先生は額を押さえながらも、どこか楽しそうだった。
「園長……これは練習、ですよね?」
「……うむ。だが、悪くない」
マオはそう答えながら、転びそうになった子を支え、泣きそうな子の背中をぽんと叩く。
混乱の中でも、誰も置いていかないように目を配る。
しばらくして、ようやく休憩の合図がかかる。
園児たちは汗だくになりながら、地面に座り込んだ。
「たのしかったー!」
「お祭り、はやくやりたい!」
その声を聞いて、マオは小さくうなずく。
準備はめちゃくちゃだったが、大事なものはちゃんと伝わっている。
「……本番は、もっと騒がしくなるな」
夕方の園庭には、散らばった輪と紙コップ、そして笑い声の名残が残っていた。
夏祭り本番は、確実に近づいている。




