夏祭りの準備
翌週、ゆるふわ保育園にはいつもと違う空気が流れていた。
園内の掲示板には色とりどりの紙が貼られ、職員室の机の上には見慣れない箱や布が積まれている。
夏祭り準備開始。
その文字に、園児たちは朝からざわついていた。
「お祭りってなにするの?」
「ヨーヨーある?」
「たこやき食べたい!」
マオは腕を組み、掲示板を眺めながら静かにうなずく。
「なるほど……祭りか……」
かつて魔王城で行われていたのは、勝利の宴や征服記念の祝宴ばかり。
だが今回は違う。
主役は自分ではなく、園児たちだ。
「園長、準備どうします?」
サクラ先生の声に、マオはゆっくり振り返る。
「全力でいこう。安全第一、だが楽しさは最大限だ」
その言葉に、先生たちは一瞬驚き、それから笑った。
準備はすぐに始まった。
折り紙で飾りを作り、提灯の下書きをし、園庭の使い方を相談する。
園児たちも混ざって、机の上は紙とクレヨンでいっぱいになる。
「園長、これなに?」
「それは……たぶん花火だな」
ハナの描いた謎の生き物のような絵を見て、マオは真剣に答える。
園児たちはそれだけで大笑いだ。
しかし、問題はすぐに起きた。
飾り用の紐が絡まり、提灯が転がり、なぜかヨーヨーの試作品が天井に引っかかる。
「園長ー!取れない!」
「よし、下がっていろ」
マオは軽くジャンプし、ひょいっとヨーヨーを回収する。
園児たちは目を丸くし、「園長すごい!」と拍手喝采。
だがその勢いで、今度は提灯が一斉に揺れ、紙飾りが雪のように舞い落ちる。
園内は一瞬で紙だらけになった。
静まり返る一瞬。
次の瞬間、園児たちは大笑いした。
「雪みたい!」
「お祭りっぽい!」
マオは一瞬きょとんとし、それから小さく息を吐く。
「……失敗ではない、演出だな」
その言葉に、また笑いが広がる。
夕方、準備はまだ途中だったが、園内は期待とわくわくで満ちていた。
マオは散らばった紙を拾いながら、ふと思う。
これからもっと忙しくなる。
もっと騒がしくなる。
きっと思い通りにはいかない。
「……だが、それでいい」
魔王はそうつぶやき、次の準備表に目を落とした。
夏祭り本番までは、まだ少し時間がある。
嵐の前の、にぎやかな静けさだった。




