夏の思い出
プール遊びの片付けがすべて終わり、ゆるふわ保育園はいつもの穏やかな空気を取り戻していた。
濡れていた床もすっかり乾き、プールにはシートがかけられている。
園児たちは教室でお絵かきをしながら、今日の出来事を思い思いに描いていた。
水しぶきだらけの絵、滑り台を勢いよく滑る自分、なぜかとても大きく描かれた園長。
「園長、これ見てー!」
「さっきの水鉄砲、楽しかったね!」
マオは一枚一枚の絵をのぞき込み、ゆっくりとうなずく。
どの絵にも、笑顔と夏のきらきらが詰まっていた。
夕方、帰りの支度を終えた園児たちは、少し名残惜しそうに玄関に並ぶ。
「またプールやろうね」
「明日も楽しいことある?」
「もちろんだ」
マオは迷いなく答える。
その声には、かつての魔王らしい威圧感はなく、穏やかな自信だけがあった。
園児たちが帰り、園が静かになる。
マオは園庭に立ち、夕焼けに染まる空を見上げた。
遠足、プール、水鉄砲、帽子探し、着替えの大混乱。
どれも取るに足らない出来事のはずなのに、胸の奥にしっかりと残っている。
「……これが、守るということか」
世界征服よりも、ずっと忙しくて、ずっと騒がしくて、ずっとあたたかい。
その事実に、マオは小さく息を吐き、少しだけ笑った。
そのとき、職員室の机の上に置かれた一枚の紙が目に入る。
次の行事予定表だ。
そこには、こんな文字が並んでいた。
夏祭り準備開始
園児参加型イベント
地域交流企画
「……なるほど」
魔王は腕を組み、ゆっくりとうなずく。
次なる試練も、きっと騒がしくなるだろう。
だがもう、逃げるつもりはなかった。
ゆるふわ保育園の夏は、まだ始まったばかりだった。




