大混乱の着替え
午後の陽射しが少しやわらいできたころ、ゆるふわ保育園のプール遊びも終わりの時間を迎えた。
園児たちは名残惜しそうに水面を眺めながら、まだ遊びたいと口々に言っている。
「えー、もう終わり?」
「まだ泳げるよー!」
魔王マオは腕を組み、うんうんと頷いた。
「気持ちは分かるが、今日はここまでだ。無理をすると明日遊べなくなるぞ」
その言葉に、園児たちはしぶしぶながらも納得する。
問題はそこからだった。
着替えの時間になった瞬間、あちこちから声が上がる。
「園長ー!タオルが見つからない!」
「ぼくの服、どこいったのー!」
「サンダル、左右ちがうー!」
更衣スペースは一気に混沌と化した。
水着がひっくり返り、タオルが床を転がり、なぜか帽子が別の子のカゴに入っている。
マオは深く息を吸い、静かに決意する。
「……これは戦だな」
魔王は園児ひとりひとりの様子を見ながら、服を渡し、タオルをかけ、名前を呼んで誘導していく。
魔力は使わない。
使えば一瞬で終わるが、それでは意味がないと分かっていた。
「はい、ユウトはこれ。リナ、その服はハナのだぞ」
「園長、ありがとう!」
「園長、結べないー!」
靴下が片方だけ行方不明になり、なぜか二足分履いている子もいる。
マオは思わず吹き出しそうになりながらも、必死に笑顔を保つ。
途中、服が濡れてしまって困っている子を見つけると、そっとタオルで包んでやる。
その仕草は、かつて世界を恐怖に陥れた魔王のものとは思えないほど優しかった。
ようやく全員が着替え終わったころ、園児たちは床にぺたんと座り込む。
「つかれたー」
「でも楽しかったね!」
マオもその場に腰を下ろし、少し汗を拭う。
プールよりも、この時間のほうがよほど体力を使った気がした。
「……だが、悪くない」
子どもたちの満足そうな顔を見て、マオは静かにそう思う。
混乱も、騒ぎも、全部含めて今日の思い出なのだ。
夕方の風が園庭を抜けていく。
水の音はもうなく、代わりに笑い声の余韻だけが残っていた。




