episode7 レイ、戦闘準備する
依頼書に記された森の入口に立ち、レイは足を止めた。
「さて……と。その前に、MP、回復しときたいな……」
魔物討伐に行くのに、MPがほぼ空っぽでは話にならない。いくら“売却”スキルが使えても、連発すればMP切れは避けられない。
(能力ガチャで何か使えるスキル引けるかも……)
一瞬期待しかけるも、ガチャ画面を開いた瞬間、レイは絶望する。
【能力ガチャ:50,000G】
「高っっっっ!!!」
初心者応援パックの激安価格はすでに終了していた。もはや雲の上の存在だ。
仕方なく、ポーションガチャがあるか探してみるも、該当するものは見つからない。
(うーん、都合よくいかないなぁ……)
考えながら、道端に生えていた雑草をむしっては“売却”していく。ひとつ1G、また1G。まるで空き缶拾いみたいな地味な作業。
だが――。
「ん?」
ふと、画面の表示に違和感を覚えた。
【薬草を売却しました:+20G】
「……あれ? 今の、ちょっと高くない?」
再び同じ草をむしり、“鑑定”してみると、そこには【薬草】の文字が。
「やった! 回復系アイテムだ!」
レイは迷いなく、それを口に放り込んだ。
が――。
「ぶほっ!? なにこれ!!??」
味は異常なほどまずかった。青汁にドクダミと泥を混ぜたような苦味が喉に広がる。
「まずっ……いや、でもっ……!」
MPを回復するため、レイは震える手で薬草をもう一つ口に入れた。
「まずい! もう一個!」
「まずい! もう一個!」
「まずい! もう一個!」
「まずい! もう一個!」
まるで何かのギャグのように、無限ループを繰り返すレイ。
結果、MPは無事に全回復。
だが同時に、レイの表情は死人のように青ざめていた。
「MPは……回復した。でも……精神力は……0……」
誰にも見られていないことを願いながら、レイはふらつきながら森の奥へ歩き出した。
――しばらくして、ようやく冷静さを取り戻すと、今度は別の問題に気がついた。
「……あれ? 私、武器……持ってなくない?」
スーツを『売却』して得た装備は、あくまで衣服。攻撃手段になるものはひとつもない。
慌てて“武器ガチャ”の画面を開くと、幸いまだ初心者応援パックが残っていた。
【武器ガチャ(1回限定):1,000G】
(これしかない……!)
所持金は1,081G。ギリギリだが、引ける!
レイは祈るような気持ちでボタンを押した。
パァァァ……と光り輝く宝箱。銀色のエフェクトが、希望を煽ってくる。
(えっ!? 銀色って……もしかして、これ……最高レア!?)
テンション最高潮で箱を開く。
出てきたのは――
「……ナイフ!?」
小ぶりで頼りない、刃こぼれすらしていそうなナイフ一本。念のため鑑定してみたが…。
【ショートナイフ:攻撃力+3 レア度:最低】
「うそでしょ!? 銀色なのに!? 紛らわしいんだよぉぉぉぉ!!」
森の中に、レイの叫びが虚しく響き渡った。
「クソガチャアアアアアアア!!!!」
――――――【 レイ 】―――――
所持金:170G( -956G)
・武器ガチャ:-1,000G
・雑草:+26G
・薬草:+20G
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