episode5 異世界生活の第一歩
「あなた……! 本当に助かったわ……!」
ふくよかな女性――宿屋のおかみさんは、涙をにじませながら零の手をぎゅっと握った。
「盗賊が逃げたって聞いて、みんな安心してるの。あなたがいなかったらどうなってたか……」
「い、いやいや、そんな……。スキルがたまたま使えただけですから……ははは……」
「今日はもうゆっくりしていって。食事も宿泊費も、もちろんタダよ!」
(少し申し訳ないけど、宿代もご飯代も浮くならラッキーすぎる……っ!)
内心ガッツポーズを取っている自分がいることに、零はちょっとだけ罪悪感を覚えた。
「本当ですか!? いや、いいんですか? あ、ありがとうございますぅ~~っ!」
(神……じゃない、このお母さんマジで女神……)
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一休みして、スープの余韻を楽しんだあと、零は宿の玄関で一度足を止めた。
「外に出るの……ちょっと怖いかも……また盗賊とか来たら……」
盗賊対策のスキルはある。でもまた無防備な格好で出歩くのはリスクだ。
ふと頭に浮かんだのは、もうひとつの手段。
「そうだ……ガチャだ。なんか防具とか装備品、出るかもしれないし!」
ステータス画面を開く。
【衣料品ガチャ(1回 1,000G)】というカテゴリがあった。
「……へぇ、服専門? よし、ポチっとな!」
ピコン!
目の前に、紫色の光を放つ宝箱が、ファンシーな効果音と共に出現した。
「……おぉ! さっきのは青色だったけど、今回は紫……レア度違う!?」
零はワクワクしながら箱を開けた。
――パカッ。
中に入っていたのは、革製のジャケットと、動きやすそうなロングスカート、そして小さなポーチ付きの腰ベルト。
まさに“異世界冒険者セット”といった風貌の装備だった。
「うわー! なんか……本格的になってきた! ジャケットの裏地とか細かいし、これ普通に当たりじゃん!」
胸を弾ませながら、零はそそくさとその場で着替える。
「よーし……って、着替えたはいいけど、このスーツどうしよう……」
見慣れたスーツ。ネクタイも、シャツも。
(社会人時代の名残って感じだけど……)
「……ま、荷物になるし。さよなら、私の社畜時代!」
零は片手を掲げ、スーツ一式に向かって叫ぶ。
「『売却』!」
【スーツ一式を売却しました】
【所持金:+50G】
「思ったより安…あっ、そういえばスーツ買うときも課金のために節約したっけ。」
ここでは上質のものだと盗賊が証言していたから(?) もしかして高級モノって思ったけど、
現代なら最低限レベルだもんな…。
ぽつりとそんなことを呟きながら、零は新しい姿で一歩を踏み出す。
(さあて……次は、この服でどこへ行こうか!)
――チートでも、スキルでも、使えるものは全部使って、この世界を生き抜いてやる!
――【金雀涙 零】――
所持金:1081G( -950G)
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