episode4 異世界生活の第一歩
「あなた……! 本当に助かったわ……!」
宿屋のおかみさんは、涙をにじませながら零の手をぎゅっと握った。
「盗賊が逃げたって聞いて、みんな安心してるの。あなたがいなかったらどうなってたか……。」
「い、いやいや! そんな大したことしてないですから……!」
零は慌てて首を振った。
(……まぁ、盗賊の持ち物を売っただけだしね。)
しかも、結構な金額になった。
むしろこちらがお礼を言いたいくらいだ。
「今日はもうゆっくりしていって。食事も宿泊費も、もちろんタダよ!」
「……えっ!?」
零の目が輝いた。
(宿代タダ!? ご飯も!? うわっ、最高じゃん!!)
浮いたお金は、そのままガチャに回せる。
素晴らしい。
「ほ、本当ですか!? ありがとうございますぅぅ!!」
「ふふふ、そんなに喜ばなくてもいいのよ。」
(神……いや、このお母さんマジで女神……!!)
零は心の中で深々と頭を下げた。
――――――――――――――――
しばらく休んだあと、零は宿の玄関で足を止めた。
「……さて、と。」
外へ出ようとして、ふと自分の姿を見下ろす。
黒いスーツにシャツ、ネクタイ。
どう見ても異世界には似合わない服装だった。
「……やっぱ目立つよね、これ。」
昨日は店の看板を売ったせいで衛兵に追いかけられ、今日は盗賊に貴族のお嬢様と勘違いされた。
(……服のせいでまた変なのに絡まれたら嫌だなぁ。)
しかも、次も都合よく『売却』で助かるとは限らない。
零はステータスを開いた。
「『ガチャ』!」
ピコン!
目の前に、見慣れたメニューが現れた。
【武器ガチャ:1,000G】
【能力ガチャ:5,000G】
【衣料品ガチャ:500G】
「……おっ! 衣料品ガチャ!」
零はその項目に目を留めた。
「五百Gかぁ……。」
現在の所持金は1,985G。
安くはないが、服を買うと思えば悪くない。
(ていうか、ガチャで服買えるとか最高じゃん!)
零は迷わず画面をタップした。
「よーし! 異世界ファッションガチャ!! いっけぇぇ!!」
ピコン!
目の前に紫色の光を放つ宝箱が出現した。
「……おぉ!? 紫!!」
前に能力ガチャを引いたときは青色だった。
(紫ってことは……もしかして高レア!?)
零は期待に胸を膨らませながら箱を開けた。
――パカッ!
中に入っていたのは、革製のジャケットと動きやすそうなロングスカート、そして小さなポーチ付きの腰ベルトだった。
「……おぉぉぉ!!」
零は思わず声を上げた。
「なにこれ!! めっちゃ冒険者っぽい!!」
ジャケットの縫い目はしっかりしており、腰のベルトにも細かな装飾が施されている。
まさにファンタジー世界の冒険者が着ていそうな服装だった。
「やっば……これ普通に当たりじゃん!!」
零は衣装を抱えて大喜びした。
(ふふふ……私もついに異世界人っぽくなれる……!)
さっそく部屋に戻り、服を着替える。
――数分後。
「……おぉ。」
零は自分の姿を見下ろした。
革のジャケットにロングスカート。
腰には小さなポーチ。
「……いいじゃん!!」
鏡がないので全体の姿は確認できないが、少なくともスーツよりはずっと異世界らしい。
「ふふふ……これで私も冒険者っぽい……!」
零はその場でくるりと回った。
だが、そこで床に置かれたスーツが目に入った。
「……あ。」
見慣れた黒いスーツ。
シャツも、ネクタイも。
現代で毎日のように着ていた仕事着だった。
(……そういえば、これどうしよう。)
持ち歩くには邪魔だし、今後着る機会もなさそうだ。
零はしばらくスーツを見つめた。
(……社畜時代の思い出、かぁ。)
朝から晩まで働いて、帰れば推しのゲーム。
食費を削り、睡眠時間を削り、給料のほとんどを課金に回した日々。
「……。」
ほんの少しだけ、懐かしくなった。
だが――。
「……ま、いっか!」
切り替えが早い。
「どうせもう会社行かなくていいし!!」
零はスーツに右手を向けた。
「さらば!! 私の社畜時代!! 『売却』!!」
ピコン!
【スーツ一式を売却しました】
【所持金:+50G】
パァッ!
床に置かれたスーツが光となって消えていった。
「……あれ?」
零は表示された金額を見つめた。
「……50G?」
昨日売った盗賊のジャケットと同じ金額だった。
「……私のスーツ、そんな安いの!?」
確かに、現代でも安売りされていたスーツではある。
課金資金を確保するため、できるだけ安いものを選んでいた。
「……いや、まぁ……そうだよね。」
零は遠い目をした。
「……私、服よりガチャにお金使ってたし……。」
自業自得だった。
それでも、手元のお金が少し増えたのは嬉しい。
零は改めてステータスを開いた。
――【金雀涙 零】――
所持金:1,535G(−450G)
MP:6(+6)/ 30
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「……よし!」
新しい服も手に入った。
お金もまだ残っている。
何より、これからは会社に行く必要もない。
「……ふふふ。」
零は胸を張って宿の玄関へ向かった。
「さぁて……次はどこ行こうかな!」
異世界での生活は、まだ始まったばかり。
しかし零には、ひとつだけ確かな目標があった。
(……もっと稼いで、もっとガチャ引いて……。)
「この世界でも、廃課金してやるんだからぁぁ!!」
こうして零は、新たな装備とともに異世界の町へと踏み出したのだった。
――【金雀涙 零】――
所持金:1,535G(−450G)
MP:6/30
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