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妹の訪れ

夏も終わりを告げて木々が赤く染った頃、俺が経験する王城での二度目の舞踏会が一週間後に開催される。

この舞踏会はデビュタントの時と同様に見習いを終えた者たちの本配属先が発表されるものだ。

それに向けての準備で忙しなく過ごす中、王都にくるのを嫌がる妹をあの手この手で誘き出して魔石に関する書類を入手したのはつい昨日のことだった。

書類に目を通せば黄色の魔石に関するものだけではなくサーヤが違和感を感じたいくつかの魔石についても読みやすく纏められていた。

妹は思った以上に優秀らしい。やはりやる気がなく腰が重いことだけが難点だろうか。


「それで、クロウ兄様はなんであのケバい人と婚約したわけ?」


目の前でお茶を飲み優雅そうに振る舞うサーヤが少々機嫌悪く尋ねてくる。それに視線だけを向けて端的に王命だと返す。

母上の黒髪とシャーレッツオの金の瞳を継ぐサーヤはフェイブルの妹ミンティナとすこぶる仲が良い。ミンティナが居ないからという理由で中等部への進学を嫌がるくらいには懐いている。

だと言うのに俺とフェイブルの婚約が破棄になったせいでカートイットとの交流機会を減らされるというとばっちりを受けているのだ。

ふと王都に寄り付かないサーヤが何故ノミンシナの化粧の濃さを知っているのかと疑問に思う。

妹は新たな婚約に納得していないからと婚約式には来ていなかったはずだ。


「お前、なんでノミンシナがケバいことを知ってるんだ?」

「は?クロウ兄様が許可したんじゃないの?」

「いや、何のことだよ」


少々の沈黙があってからサーヤが硬めのクッキーを音を立てて食べ始め、何度か咀嚼して飲み込む。


「会いに来たのよ」

「……領地にか?いつ……」

「婚約式の少しあとくらい。なんか……急に来て微妙な質のガーネットのブレスレット渡されたんだけど?報せも何も無かったせいでみんな大変だったんだけど本当に知らなかったの?」

「……知らないし、こっちに報告すら来てないな」

「てゆか、義妹と仲良くなりたいのとか言われてブレスレット渡されたのはいいけど請求うちに来たんだけど?何?どういうこと?しかもご丁寧にカートイットのお膝元のお店で作ったらしいわ。性格悪いにも程があるんだけど」

「は?」


到底理解のできないノミンシナの行動に頭を抱えはしたがあれの行動を理解しようとするだけ無駄だとサーヤに言い聞かせる。ついでに王命の詳細は伏せたがノミンシナとの婚約は破棄を前提で結んでいることを伝えると全力で応援するし仕方がないので手伝うとも言ってくれた。


「それで、なんで教会のこと調べてるの?」

「お前に調べてもらったイエローダイヤモンはノミンシナが主教に許可を取ってから知人の修道女に贈ったものらしい」

「怪しいどころの話じゃないわね。ちなみにあの魔石は今年のデビュタント前に教会に贈呈したものだったわ」

「贈呈品なら加工してあったんじゃないか?」

「そう。元は彫像に埋め込まれててもっと大きな魔石だった。それがカートイットのおじ様以外の人物の手で加工されてブレスレットになってたってことになるわね」

「教会か……」

「探るのは面倒そうね。あ、父様とマリ兄様には話してないからね」

「気が利くな」

「母様と義姉様はこういうの得意だけど、父様たちは真面目が取り柄みたいな人たちだからね……」


確かにあの人達は正面から調査すると言って乗り込みかねない。


「他に纏めてある魔石についての書類も教会に贈呈したものだけど、全部教会側から指定されて贈ってるものよ。教会に加工できる人間がいると仮定すれば今は別の形で誰かの手に渡ってるかもしれないわ。……それとシュレイ様が四日前に領地にいらしたの」


シュレイというのはサノス公爵家の末娘で俺と同い年の令嬢だ。ちなみに緊急任務の際にショモナー夫人の髪結いとして従いレイユと名乗っていた女性のことでもある。学院に通うことを拒み趣味でいろんな場所に潜り込んではあらゆる情報を不定期に持ってくるとキエナから聞いているが、なぜ今回はシャーレッツオに情報を落としに来たのだろうか。


「ショモナーの亡くなった老夫妻が高級な宝石を溜め込んでいたらしいわ。その宝石の一部が王城の離宮と教会から持ち込まれていることも確認できたって」

「教会は国王と王妃の後ろ盾だったか」

「そう、ね……」

「サノス公爵家としては見逃すことも出来ないが表立って糾弾することも難しい立場だな」


もし糾弾したとなれば王位簒奪を目論んでいると思われかねない立場にあるのは現状サノス公爵が王位継承権三位にいるからだ。

二位の王子はまだ幼く、同年代の令息令嬢と比べても幼稚だと従兄たちが言っていた。

王妃が居る限り王子は育たず、国王が諌めない限り王妃が教育に口出ししなくなることもないと怒り任せに愚痴っていたのも記憶に新しい。

故に彼らは新たな教師と側仕えになる可能性の高いフェイブルとヨークに期待しているのだろう。

近衛騎士の多くは現王よりもサノス公爵を推していた家々の名が多い。シャーレッツオやロレンザも例に違わず当時第二王子だったサノス公爵の後ろ盾として立っていたが、サノス公爵自身が臣籍降下することで王位争いを収めている。それでもサノス公爵の王位を諦めきれていない筆頭にロレンザがいる。

サノス公爵もだがキエナとエルゴだって王位継承権を放棄したいのだ。それが出来ない理由を王妃が理解しない以上、彼らが継承権を放棄できる日は来ない。


「シュレイ様は魔石の鑑定はできないから溜め込まれた宝石が魔石としてどれほどの価値があるものなのかは判別できていないみたいだけど、教会から持ち込まれているとなると……そういうことよね?」

「まあ、全て魔石としての価値が高いものだろうな。それで、その魔石はどうなっているか聞いたか?」

「定期的にどこかへ送っていたみたいだけど、そこにショモナー伯爵夫妻は関与していないみたい。だから最近のものはショモナーの領主城にあるんじゃないかって言ってたわ」

「ノミンシナが修道女に渡したブレスレットに付いていた黄色の魔石もそこから流れたものと考えるのが妥当かもしれないな」

「魔石に関する知識は秘匿とされているし無知なショモナーの老夫妻が渡していても不思議じゃないわね」

「ショモナー伯爵夫妻が溜め込んだ宝石の価値に気付く前に処分する必要があるな」


そう言ってサーヤに歩み寄り頭に軽く手を乗せる。


「ありがとうな。この件は俺が片付けるからお前は何も聞いていないことにしろ」

「わかったわ。……どうするのか分からないけど気をつけてね?」

「あぁ」

「じゃあ、私は義姉様にも呼ばれてるから行くわね」


出て行く足取りの重さから乗り気ではないことが分かり苦笑いを浮かべて見送ると静かに控えていたヴァンスが口を開く。


「如何する予定ですか?」

「サンチェスとパッセに協力を頼む」

「畏まりました」


頭を下げヴァンスは二人に連絡をとるために部屋から出て行った。


国王と王妃の近くに教会の影があるとなればフェイブルとヨークが巻き込まれる可能性が高い。

ハオスワタだけでも厄介だというのに随分と事が大きくなってきたなと天井を見上げ、疲労の滲む瞳を閉じた。

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