201.寝落ちは気絶と同じです
夜も更けた頃。
寝間着姿になったわたしを見たリベアが、当然のようにベッドをぽんぽん叩きます。
「師匠、こっちです」
「……はいはい」
苦笑しながら隣へ横になると、リベアは安心したように身体を寄せてきました。
「えへへ……」
「病人なんだから、あんまりはしゃぎすぎないように」
「はーい」
返事だけは素直です。
それに、甘える声はどこか嬉しそうで。
「今日もゆっくりおやすみ」
わたしは小さく息を吐きながら、そっと彼女の頭を撫でました。
高熱に苦しんでいた時に比べれば、顔色も随分良くなっています。
まだ油断はできませんが、それでも――こうして笑っていられる程度には回復している。
それが、今は何よりも嬉しかったのでした。
「ししょうだぁー。今日は師匠の匂いを嗅いで寝られる〜。幸せですー」
彼女の頭が、わたしの左肩へこてんと乗せられます。
頬に触れる柔らかな髪が少しくすぐったい。思わず顔を逸らしました。
「でへへ。ここ安心しますー」
「まったく、この子は。重いので、疲れたら頭どけるよ」
「えー。師匠が身体強化魔法を使って頑丈になればいいんですよ〜」
「…………帰りますよ?」
「あー! ごめんなさい師匠!! 帰らないでください」
「冗談だよ。少しいじめてみただけ」
「ひどーい、です!!」
むぅー、と頬を膨らませながらも、リベアは結局わたしから離れようとしません。
むしろ、さっきより密着してきている気すらします。
「……暑くないの?」
「んー、ちょうどいいです。師匠、ほんのりあったかいので、なんだか安心します」
「湯たんぽ扱いしないで」
「湯たんぽ兼だっこ枕です!」
「機能が増えた……」
思わず呆れた声が漏れます。
ですが、リベアは楽しそうに笑うばかりでした。
しばらくすると、さすがに疲れたのか、彼女の声が少しずつ間延びし始めます。
「ししょー……」
「なに?」
「えへへぇ……」
「返事になってない」
「ししょーの声、落ち着きますねぇ……」
瞼も半分ほど閉じていました。そんな彼女を見ていたら、つられてわたしも眠くなってきました。
「そろそろ寝る?」
「んー……」
それでも、離れたくないのか、彼女はわたしの服をきゅっと掴んだままです。
「ちゃんと寝なさい。このままだと首が寝違えますよ」
「寝てますぅ……」
「それはちゃんと寝てる人の台詞じゃないんだよなー」
「だいじょーぶですぅ……」
完全に眠気に負けていますね、これは。
――数秒後。
「すぅ……すぅ……」
静かな寝息が聞こえ始めました。
本当に寝たみたいです。早かったですね。
わたしは小さく笑いながら、そっと彼女の髪を撫でます。
「……おやすみ、リベア」
すると。
「はっ!?」
突然、リベアが飛び起きました。
「ね、寝てません!!」
「いや、今完全に寝てたよ」
「違います! 今のは……ちょっと意識が飛んだだけです!」
「それを一般的には寝落ちって言う」
「違いますー! 寝落ちは気絶と同じですー!」
「絶対違うから」
そんなこんなで、わたしは彼女を寝かしつけ、自分も気付かなくうちに、気絶……ならぬ寝落ちをするのでした。




