大切な人
じわじわとした暑さに目が覚めた。
割となんでも有りな両親だが、館の中を魔法で涼しくしたりはしていない。
暑さや寒さを無視している両親が自分達に関係の無いことをするはずがない。
特訓を始めて何日たったか覚えていないが、成果は着実に出ている。
今までよりも快適に動く身体で起き上がる。
ここ最近は、今の状態こそが本当の姿なのでは、と思っている。
寝ている間にめくれていた袖の下から、二の腕が見えた。 そこには指の先ほどの小さな銀色の鱗が一枚、たった一枚だが有った。
このことは誰にも教えていない。
別に有った所で何も起こらないが、少し気になる。
この小さな鱗がどんどんと広がっていき、ドラゴンになるのかもしれない。
母さんはその可能性は無いと言っていたが、この世に絶対は無い。 それはそれで楽しそうだしなぁ。
(気分的な問題で)学校の制服に着替えると、部屋をでる。
迷路な廊下を進んで行き、食堂を目指す。
やっとのことで見つけた食堂のドアノブに手を伸ばすと、ドアノブが飛び出した。
「…………!」
飛び出したドアノブが手に当たる。
指がへんに曲がって痛みを感じた。
だが、それ以上に見たものが衝撃だった。
壊れたドアノブを持っていたのは母さんだった。
「…………」
無言でドアノブを見つめる母さんの目には普段の圧倒的な生気が感じられず、何を考えているのかわからない。
母さんの手からドアノブが滑り落ちる。
しかし、母さんはそれを拾わずに歩きだすと、外に出て行ってしまった。 無論、扉は壊されている。
何がなんだがわからずにいると、肩を叩かれた。
振り返るとそこには、悲しい笑いを浮かべる父さんがいた。
「母さんは落ち込んでいるんだ。 大切なものが自分のせいで壊れてしまったから。 だから、今はそっとしておきな」
「大切なものって人? それとも物?」
「大切な人だよ。 そうだなぁ……その人間と母さんが初めて会ったのは、まだ竜騎士の制度ができる前。 母さんと父さんが一緒になってすぐの頃だったかなぁ……」




