奇光
夏休みに入り、ほとんどの生徒がいなくなったカエルム竜騎士学校は、普段とは比べものにならないほど静かだった。
残っているのは成績が悪く補修の生徒と、教員だけだ。
教員も全員がいるわけではなく、竜騎士の本来の仕事である国の警備や、関係各所への出張、休暇などで半分ほどはいない。
それでも武力行使が必要な事案が発生したとしても、戦力には不足していない。
料理人から清掃員まで全員が竜騎士だからだ。
がらんとした廊下を両手に書類を持ったユリアが歩いていた。
その後ろにはユリアの三倍もの紙束を持った、白髪の長身の女性——人化したドラゴンのハクがついて行っている。
「ごめんね、ハク。 書類を運ぶのを手伝わせちゃって」
「いいのよ、これも美味しいお肉のためだから。 それに力仕事なら私たちの方があってる」
「ありがとう」
嬉しそうな顔をしているハクに、素直に感謝をする。
完璧美人なハクは無類の肉好き。 何かを手伝って貰った時にはいつも肉を渡している。 逆に言えば、肉があれば割となんでもしてくれる。 ハクが軽い女でないことはわかっているが、パートナーのユリアとしては、いつか悪事をさせられまいかと心配である。
「書類を持って来ました。 手が塞がっているので、扉を開けてください」
目当ての部屋の扉を見つけると、中に声をかける。
扉はすぐに開かれ、中では事務職の人達が忙しなく手を動かしていた。
二人が呆気にとられていると、扉を開けてくれた女性が背中を押した。
「申請書は右手の机に、それ以外——始末書などは左手に置いていってください」
「は、はい」
急かされるままに、書類を仕分けていく。
二人の背中を押した女性もすでに元に仕事を始めていた。
事務職の人達は一様に目の下に隈ができていて、今にも倒れそうだった。
カエルム竜騎士学校の職員は、適正によって校長に仕事を与えられていた。
ユリアは教員に選ばれた当初は事務職の方が向いているのでは?と思っていたが、今の様子を見る限り、自分には教員の方が向いていると思った。
書類を出し終わったユリアとハクは、半端追い出されるように、部屋からでた。
普段なら怒るところだが、あの様子では無理もないかと、二人で笑った。
残った仕事を片付けようと職員室に戻ろうとしたユリアは、窓の外に見える山の上で何かが光ったように感じた。
ハクも見えたようで、お互いに頷くと、窓の外に飛び出した。
先に飛び降りたハクが、人化を解いて白いドラゴンの姿に戻り、その背中にユリアが着地する。
力強い翼の羽ばたきでハクの身体はぐんぐんと加速していく。
あの光は、一般人にしてみれば見間違えかと思うかもしれないほどの一緒だった。
しかし、竜騎士であるユリアとハクには、それがドラゴンの鱗が輝いた光に見えた。
しかし、今日は、来客の予定は無いし、補修も午前の間に終わっている。 出張にでた教員はまだ帰ってこないはずだ。
ユリアは一学期の間に何度も感じた、悪い予感を覚えた。
もう一度学校の話です




