迷子のフロース
昼飯を食べた後は、荷物の片付けだけで終わってしまった。
特訓は明日からだそうだ。
夕食も食べ終わった所で父さんが提案をしてきた。
「クロエも一緒に温泉に行かないか?」
「温泉? どこにあるの、それ?」
「ここから少し飛んだ所。 穴掘ってたら偶々、掘り当て。 無駄にでかいから人化を解いてても、そのままで入れるぞ」
相当でかいんだろうな。
「レイン達はどうする?」
「私は行くよー」
「姫様が行くなら、私も」
レインとアティアはそう言うがフロースは、
「私はちょっと……お風呂で良いよ」
それもそうか、ドラゴン同士なら混浴でも気にならないが、フロースは人間だしな。
「フロースが行かないなら私もいいかなー」
「私のことは気にしなくていいから、ミセリアも行ってきなよ」
「……そういうなら、レインちゃんとアティアについていこうかな〜」
「そうと決まれば早速いくぞーい」
「おーう」
「いってらっしゃい」
「行ってくるぜ!」
飛び立つレインの背からフロースに手を振った。
◇◆◇◆◇◆◇
クロエ達が温泉に行った後、フロースは途方に暮れていた。
一人着替えを持ってお風呂に行こうとしたフロースは、館の中で迷子になっていた。
(なんで横に行きたいだけなのに、上がったり下がったりしないといけないのよ!)
この館、いたるところに廊下を遮る壁があった。三部屋分を進めば、壁と階段が現れ、上下に移動しなければならなかった。
そして、もう一つ。
(なんで誰もいないの!?)
迷子になったフロースは、誰かいないかと声を出した。
しかし、反応がなかった。
あれだけいたドラゴン達は皆、揃って温泉に行ってしまったのだ。
そんな、フロースの前に救世主が現れた。
イライラしながら、上がった階段の先でサクラナと遭遇したのだ。
フロースの姿を見たサクラナはため息を吐いた。
「……何をやっているんだ?」
「あはは、えっとお風呂に行こうとして迷子になってしまって。 サクラナさんは温泉に行かないんですか?」
「まぁな。 どのみち行かなくて正解だと思うよ。 実はあの温泉、とてもつもなく暑いんだよ。 入ってみたら、火傷したからな。 温泉ってのもドラゴン目線からだからな……お風呂だったな。 案内するから、ついてきて」
「ありがとうございます!」
(やっとお風呂に入れる!)
嬉しくなってサクラナについて行き、馬鹿な自分を呪った。
「ここだよ」
サクラナに案内されたのは、食堂のすぐ横だった。
完全に盲点だった。
「じゃあね」
それだけ行ってサクラナは行ってしまった。
早速お風呂に入ろうと、脱衣所で準備を始めたフロースは、大切な物を忘れていたことに気がついた。 乙女にとって最重要な物をだ。
急いで寝泊まりに使う部屋まで戻ろうとしたフロースは、一度止まって魔法で光の紐を作りだした。
これを辿っていけば迷子になることはない。
だが、今度は部屋の場所がわからなくなってしまった。
忘れ物を確保して、お風呂に戻って来た頃には、汗だくになっていた。
パッと、汗ばんだ服を脱ぎ捨てると、早速お風呂の戸を開けた。
中は他の場所ほど大きいわけではなかったが、やはり広さに余裕がある。
湯けむりの中、しっかりと身体を洗って湯船に浸かろうとした時、異常な光景が目に入った。
湯船の中に一人の女性が浸かっていた。
長く白い髪に隠れて顔は見えない。
しかし、問題はそこではなかった。
その女性の周りのお湯だけが、紅く染まっていたのだ。
「大丈夫ですか!?」
フロースはその女性が怪我をしたのだと思った。
しかし、それは違った。
「……まだ、入ってなかったのか」
「サクラナさん!?」
振り返ったのはサクラナだった。
「サクラナさん、その髪って……」
フロースが気になったのはサクラナの白い髪だった。 確か、サクラナの髪は赤い色だったはず。
サクラナは自らの白い髪を懐かしい物を見る目で見た。
「これが私にかけられた呪いなんだよ。 私の髪には血が染み込んでいる。 この血は洗えば落ちるが、すぐに元の色に戻ってしまう。 ほら……」
サクラナの見せた髪の先はほんのり赤く染まり始めていた。
「私が入るとお湯が赤くなってしまうから最後に入るようにしていたんだが……まだ、入っていなかったとは」
「あの、すいませんでした。 見られたくなかったんですよね?」
「いや、そうでもないけど。 ただ、後から入る人に申し訳ないかなって」
「そうでしたか……」
沈黙が流れる。
フロースはサクラナの綺麗な肌に見とれていた。
傷一つ無い白い肌。 それに、無駄の無い完璧な身体つき。 あと、胸が大きい。
ここまで徹底的に女性らしさが負けると、むしろどうでもよくなってくる。
……やはりクロエも大きいのが良いんだろうか?
ブンブンと頭を振って雑念を追い払う。
サクラナが立ち上がり、フロースの頭を撫でると、
「のぼせるなよ」
と言って、お風呂を上がってしまった。
一人になったフロースはお湯に浸かろうとして、赤いお湯がなくなっていることに気づいた。
「…………すごいなぁ」
広い風呂場にフロースの呟きがよく響いた。




