竜除けのお香
「そろそろ、お母さんの所に行きましょうか。 どうせ、地下室で実験してるだろうし」
「俺も行くからな!」
「貴方は仕事があるでしょ!」
「ぬぅ……フロースもなにか言ってくれ!」
「無様ですね、お父様」
「フロース……!?」
なんて会話があって今、俺たちはツバキさんと地下室に向かっている。
長い廊下を突き当たりまで進み、ツバキさんが何やら壁に触れるとカチッと鳴り、壁の一部が横にスライドして地下に続く階段が現れた。
「ここから先は少し刺激が強いかもしれないので悪しからず」
「は、い?」
ツバキさんの言っている意味がわからなかった。
血生臭いとかそういうことだろうか?
答えは意外とすぐにわかった。
階段を半分まで降りた所で鼻を刺すような、耐えられないけど耐えられるギリギリを行く刺激臭が漂ってきた。
「うぅ……気持ち悪いよぉ……」
「頭がズキズキとしますね……」
「なんかぼぉーっとしてきたね〜」
後ろでドラゴン三人組がダメージを受けていた。
「子供には刺激が強すぎましたね。 貴方たちは外の空気を吸ってきなさい。 これ以上は進めません」
ツバキさんの言葉に三人組は素直に元来た道をふらふらと引き返して行く。
「この臭いはなんですか?」
再び階段を降りながらツバキさんに聞いてみた。
「この臭いはお母さんが作った『竜除け』です。 ドラゴン嫌いが故に作った最高傑作だとか。 本当の所は知りませんがね。 そういえば貴方は半竜ではなくて? 大丈夫なのかしら?」
「俺は大丈夫です……たぶん。 あくまで半分だけなので」
「そうなの」
「クロエ、無理しなくていいからね?」
フロースが背中をさすってくれる。
「ありがとう。 でも、大丈夫だから」
半竜の俺に臭いだけでダメージを与えてくるなんて、純粋なドラゴンには毒みたいなものだな。
「着きましたよ。 ここがお母さんの地下実験室です」
薄暗い階段から一転、かなりの広さの明るい部屋がそこにはあった。
壁には何が書いてあるのかわからない紙が所狭しと貼られていた。
机の上には様々な薬品や器具が乱立されている——本人には最適解なのだろうが。
そんな大部屋のなかで、俺が興味……と言うか意識せずにいられなかったのが、天井から吊るされた黒い幼竜の死骸だった。
「なんなんだよ、ここは……」
なぜ、幼竜の死骸がここに?
ドラゴン嫌いの人の実験室に?
死骸を使ってなにをするんだ?
「誰だぁい?」
「うわぁっ!?」
突然、足元から真っ白髪の小さなおばあさんが現れた。
いや、現れたんじゃなくて、幼竜に気を取られて気づかなかっただけで最初からいたんだ。
「なんだぁ、ツバキとフロースかいなぁ、そっちの男かぁ誰なぁ?」
「お祖母様、こちらはクロエ・ドラグーン。 私の学友です」
「ドラグーン? おめー、サクラナの息子けぇ?」
「え、はい、そうです、俺がクロエです」
「ふーん、まぁいいわぁ。 それで、なんか用ありけぇ?」
「お母さんの実験室を二人に見せに来たのです。 実験は順調でして?」
「全くだなぁ。 一向に成果がでんねぇ」
いったいなんの実験をしているんだろうか?




