純粋な力
クロエ達が襲撃を食らった少し後、だだっ広い大地を走る四人の影と限界まで高度を下げて飛ぶ四頭のドラゴンがいた。
先頭を走るのは目を爛々と光らせた、どこからどう見ても筋骨隆々な漢だった。 見事としか言いようの無い筋肉は制服の袖を無き物にし、ノースリーブへとグレードアップしていた。
背後を走る三人も先頭の漢より劣るとは言え立派な筋肉を持っていた。 そして、ノースリーブである。
そんな四人の周りを低空で飛ぶ四頭のドラゴンは普通のドラゴンと違い手足が一回り太く、鱗は岩のように凸凹としていた。
彼らは、稀に生まれる特異種で城塞種と呼ばれる圧倒的な力と防御を兼ね備えたドラゴンである。 しかし、欠点もある。 身体が他のドラゴンよりも重いせいで飛行能力が著しく下がっているのだ。 現に今も地面すれすれを飛んでいるのは、敵に見つからないようにするためでもあるが、あまり高くまで飛べないのも起因していた。 城塞種以外にも特異種は存在し、四足歩行では無く後ろ足二本で立ち上がり、自由な前足で敵を撲滅する恐竜種もいる。 ちなみに、現竜帝は恐竜種である。
「アーク、いつまで走るんだ?」
先頭を走る漢アークに話しかけたのは、背後を走る三人の中で唯一眼鏡をかけた男だった。
「キーンか! もう少しだ! 俺の嗅覚は明確に魔法の臭いを感じ取っている!」
「魔法に臭いなんて無いと思うが……ニックとジョーワンはどう思う?」
「俺は兄貴を信じるぜ! 筋肉は裏切らないからな!」
「どちらでもいいさ。 全ては筋肉にある」
「お前らは良く分かっているな! 筋肉こそが至上の存在だ!」
「脳味噌まで筋肉かよ……」
キーンがそっとボヤく。
圧倒的な筋肉好き。 もはや病気では無いかとキーンは思っている——彼もその一人だが。
「むっ! あそこが臭うぞ!」
突如止まったアークが指したのは、樹齢何百年になろうかという大木だった。 しかし、そこに生物の影は無い。
「錬成、竜装!」
アークが呪語を唱えると、その逞ましい左腕に巨大な盾が現れた。 異様に分厚いその盾には、なにか細工が有るのではと疑いたくなる。
背後では同じように竜装である盾を装着した三人と、突進の構えをとった四頭のドラゴンが待っていた。
「よし、いくぞぉ!!」
『うおおぉー!!』
雄叫びとともに彼らが走り出す。
瞬く間に距離を縮めた彼らが大木に接近した瞬間、景色が砕けた。 文字通り、割れたガラスのように破片が散ったのだ。
「何故、ここがバレたんだ!? 計算に狂いは無いはずだ!」
中から飛び出してきたのは、四人の眼鏡をかけた男と四頭のドラゴンだった。
「やはり、俺に狂いは無かった!」
「さすが、兄貴! ヤッたりましょう!」
「おうよ! おめーら、筋肉全開でいくぞぉ!」
雄叫びを上げて突っ込んでくる筋肉達に、四人の眼鏡は慄いていた。
すでにドラゴン達は入り乱れての乱戦になっている。 助けは求められない。
「くっ! 何故バレたか知らないが、こちらもいきますよ!」
真っ先に冷静になったインテの声に眼鏡三人は落ち着きを取り戻し、各々魔法を発動させていく。
男達は飛んでくる魔法を盾で防いでいく——アークを除いては。
「ふんっ!」
アークは飛んでくる魔法を右腕一本で粉砕していた。 炎、氷、雷、岩。 その全てを等しく無に帰す。
「意味がわからない! 何故拳一つで魔法を! その盾はなんのためにある!?」
「なんだ? 俺の筋肉に震えるほど感動したか?」
「そんなわけあるかっ!」
インテは全力で火球を作り出し打ち出した。
アークはそれに正面からぶつかりながらも白い制服が僅かに焦げるだけだった。
「筋肉パーンチ!」
アークの巨腕がインテにめり込む。 そして、
「うわあああぁ——」
消えた。 残ったのはバラバラになったブレスレットだけ。
つまり、アークの一撃はインテに致死レベルのダメージを与えたのだ。
突然のリーダーの消滅に眼鏡達は動きを止めてしまう。 その間を逃さずキーン、ニック、ジョーワンはトドメを刺していく。 相棒を失ったドラゴン達も城塞種のパワーに捩じ伏せられ、首に牙を沈められ消えていった。
彼等は死んではいない。 ただ、敗者の間に転移させられただけである。
アーク、キーン、ニック、ジョーワンは拳を合わせて、『筋肉最高!』と叫んだ。
それに呼応するように城塞種達も咆哮する。
開始三時間。
すでに一つのチームが脱落していた。




