夜の森にて
後五分で開戦という中、俺たちは学校を囲む森の一角に陣取っていた。
日替わりでの開戦だけに今は真夜中で、僅かな月明かりでしか見ることができない。
半竜である俺やドラゴン、エルフはこの程度ではなんの支障も無いがフロース達は違う。 だからこそ、森を選んだのだ。
木々のせいで視界が悪く、ドラゴンの着地が容易では無いこの場所なら夜明けまで守りに徹することができる。
注意すべきなのは一組のエルフ軍団『深い森』だけ。
森で育ったハイスペックエルフなら真夜中でも普通に襲撃してくるかもしれない。 それに、人化したドラゴンも侮れない。 見た目こそ人のそれだが、筋力や頑丈さはドラゴンのまんまだから。
——ほんと、羨ましい。
「クロエ、始まるよ」
フロースに言われて思考を引っ張ってくる。
胸ポケットから時計を取り出して確認する。
3……2……1……
ゴーンゴーンゴーン
学び舎の鐘が三回鳴り響く。
開戦の合図だ。
「夜明けまで待つのも暇なもんね」
〔私、眠くなっちゃった〕
〔交代で見張りをしましょう。 まずは私とクロエが、姫様、フロース、ミセリアは少しでも睡眠を取ってください〕
〔そんじゃ、よろしくねー〕
「おう、任しとけ」
レインとミセリアが丸くなって眠り、フロースはミセリアの後ろ足にもたれて目を閉じる。 その手には竜装ラディウスが握られている。
「錬成、竜装」
俺もシルバードを呼び出し、地面に胡座をかいて座ると抜き身のそれを足の上に置く。
反対側ではアティアが静かに暗い森を見つめている。
〔……クロエ〕
〔なんだ? なにか見つけたか?〕
静かにするために声は出さず、意識で会話する。
〔私は姫様を守ると誓いました。 けれど私は弱い……姫様どころか自らの身さえ満足に守れない。 もしもの時は姫様をお願いします〕
なにを改まって言ってんだ?
〔俺たちは絆を結んだ相棒だ。 だからレインを守るのも当たり前だしこれからもそのつもり。 俺だってレインに約束したことがあるからな。 あとな、お前は弱くないからな。 強さってのはなにも戦闘だけじゃないから〕
〔……ありがとう〕
◇◆◇◆◇◆◇
開戦から二時間ほど経ったある時、俺は暗闇の中にチラチラと動く影を見た気がした。
〔アティア、三人を起こしてくれ〕
アティアに指示をだしてシルバードを構える。
〔何かあったの?〕
フロースがラディウスを持って後ろに来た。
〔多分、敵。 フロースはなるべく大量の光で辺りを照らしてくれ。 三人はフロースを囲んで守って。 俺が引っ掻き回す〕
〔りょーかい。 ピカッとするよ〕
フロースが大量の魔方陣を展開してすぐに辺り一帯が昼間の如く明るくなった。
魔法の光に照らされ、四つの不自然な影が浮かび上がる。
——まずは、一番近く!
全力で地面を蹴り距離を詰めると、影の元にシルバードを突き刺す。
「ぬっ!?」
手応えの代わりに飛んで来た矢をギリギリで躱す。
現れたのは緑の弓を構えた黒髪のエルフだった。
すかさず攻撃しようとするが、そいつは木から木へと高速で飛び移りすぐに見失ってしまった。
だから、エルフは敵にしたく無い。
森生まれ、森育ちのエルフだからこそできる隠密行動だ。
毒づきながら走り、フロース達の元へ戻る。
四人は一撃離脱を繰り返すエルフ達に苦戦している様子だった。
エルフ達は木々を盾にドラゴンの攻撃を避けていた。
攻撃範囲の広さが裏目にでているのだ。
フロースに一撃をかまして、下がろとした女エルフに背後から斬りかかる。
「くっ!? 卑怯な……」
卑怯? 知らんね。
完璧だと思った攻撃はエルフの超常的な身体能力のせいで肩を斬りつけるだけになってしまった。 無念。
追撃しようと振り下ろしたシルバードが、間に滑り込んだ青い剣に止められる。
「お前か……えーっと、ライトか」
「また、後で。 イングリッド! 撤退だ!」
ニッコリ笑ったライトは怪我をした女エルフを支えながら暗闇の中へ消えていった。
〔各自、損傷報告〕
〔フロース、魔法のせいで疲れたー〕
〔レイン、無傷です!〕
〔アティア、無傷〕
〔ミセリア、大丈夫でーす〕
初っ端から怪我をしなくてよかった。
向こうは怪我人——もとい怪我エルフがいるし、しばらくは大丈夫だと思う。
「はぁーめんどいなぁ……」




