不思議な飴 青・緑・赤
まさかの最弱の八班の優勝という王番狂わせと、俺の半竜騒ぎから一週間。
代表決定戦も終わりしばらく平和になるかと思いきや、俺の元には連日大量の生徒やヤバそうな人達が押しかけてきていた。
クラスの生徒だけに留まらず、他のクラスや上級生までもが集まっている。
彼らの目は好奇心でいっぱいだ。
——人気者は辛いぜ……
フゴッ!?
「なにやってんの!」
後ろを見ればフロースが急げと言わんばかりにイライラしていた。
「また生徒が押しかけてくる前に行くわよ!」
あー、なるほど。 とっくに授業は終わっていたか。
寝ていたからわからなかった。
「行きますかね」
フロースと廊下にでると、奥に走ってくる生徒達が見えた。
「もう来てるわよ!」
「急いでレイン達と合流しようか」
反対側の階段から一階まで降りると、一人の女生徒が待ち構えていた。
「そこの二人止まりなさい! 三年三組、ゼルア・イブリーアがあなた達に突撃取材です!」
ゼルアって、代表決定戦の解説やってた人か?
よりによって先輩か。
「はぁっ!」
俺が気にせず横を走り抜けようとすると、ゼルア先輩は足払いを仕掛けてきた。
生徒といえ、竜騎士としての訓練を受けてきた人の足払いは見事なまでに正確で素早かったが、俺が転ぶことはなかった。
「なっ!?」
俺は床を蹴り壁に移り足払いを回避していた。
一瞬遅れてたら危なかった。
「止まってよ! まだ、あんなことやこんなことを聞いてないんだからー!」
「……面倒な人に目をつけられたわね」
「人ごとみたいに言うな。 お前も十分対象だから」
喚く先輩を無視して学び舎の外にでると人化を解除したレイン、アティア、ミセリアの三頭がすでに待っていた。
〔遅いよぉ、クロエ〕
〔本当ですよ。 こんな危ない日差しを浴びて姫様の鱗が傷ついたらどうするのですか?〕
「仕方ないだろ? これでも必死に逃げてきたんだよ」
〔毎日大変だね〜。 あたしらみたいに翼があれば飛べたのにねぇ〜〕
翼は無くも無いんだけどね。 今は無いだけで。
「お喋りはそこまで! さっさと行くわよ!」
「おうよ」
フロースの叱咤を受けて、三頭が地面を蹴り飛び立つ。
◇◆◇◆◇◆◇
ビュンっと飛んでやって来たのは竜舎にあるアティアの部屋だ。
竜舎はそれぞれの宿舎から距離が相当あるため追ってくるのは少ないだろうと最近はここで夕食までの暇つぶしをしている。
ふわっふわの藁が敷き詰められた奥の方から人化してティーセットを持ったアティアがやって来た。
「今日はレッドティーです。 見た目はアレですが、味は保証しますよ」
目の前に置かれたカップに注がれたのはどう見ても血だった。
「……これはなんの血ですかね?」
「美味しいわね、レッドティー」
俺が恐る恐る聞く横でフロースが普通に飲んでいた。
「クロエも飲みさいよ。 ピリッとするけど味は良いわよ」
「これを見てると苦っがい血の味を思い出すんだが……」
「そういえば、竜の血を飲めばこの前みたいになるんだっけ?」
「まぁ、だいたいそんな感じ」
代表決定戦の後に俺はフロース達に正体を明かした。
血を飲めば一時的に竜の血の割合が増えて形態・半竜になれるわけだ。 変化させられる場所もコントロールできる。 代表決定戦の時は、怪我をした左腕と右足を補うためにそこを変化させた。
「それは竜の血ならなんでも良いのですか?」
珍しくアティアが俺に質問をしてきた。
「言われてみれば今まで父さんの血しかのんでないな
。 というか、苦いからあんま飲みたくない」
「……ちょっと試したいですね。 姫様、ミセリア、こちらに」
横で菓子をパクパク食べていた二人の手を取ってアティアは奥に行ってしまった。
「……なにするつもりだ?」
「私に聞かないでよ」
——一時間後。
「お待たせしました」
「血ぃ〜血ぃ〜がぁ〜」
何かを持って来たアティアの後ろでレインとミセリアが呻いている。
「いったい何をした!?」
「さぁ、こちらを」
俺の叫びを無視たアティアが見せたのは、青、緑、赤の飴がそれぞれ入った三本の試験管だった。
「青緑赤……これってお前ら三人の鱗の色じゃないか。 なんで飴なんか作ってんだよ!」
「鱗の色だと気付いたのは流石ですが、これはただの飴ではありません。 私達、竜の血で作ったクロエ用薬です」
「ちょ、え!? 血? 薬? なに作ってんの!?」
だから二人が呻いてるのか! 採血したんか!
「問題はありません。 味は保証しますよ」
ちょっと嬉しそうに言うのやめてくれ!
こういう時こそフロースに!
「フロースはやめた方が良いと思うよな?」
「私はむしろやるべきだと思うけど? きっとうまく行くわ。 戦力アップよ!」
「くっ! 何も起きなくても逆ギレするなよ!」
半ばやけくそに一番マシそうな青い飴を口にいれる。
「どうですか?」
アティアが興味津々とばかりに聞いてくる。
「……なんで魚の味がすんの?」
俺の問いにアティアは自信満々に答えた。
「それは姫様の血で作った物ですね。 青と言えば海です。 だから、魚の味にしてみました」
職人技が冴え渡ってるな! どうやったら血の苦さが魚になるかなぁ。
「…………あなたのために味をつけたのですよ」
アティアが何か言ったような気がしたけどいっか。
「で、変化はあるの? 美味しい飴で終わったら殴るわよ?」
「もうちょい待って。 まだ舐め終わってない」
「早くしなさいよ」
……ガリッ。 噛んじゃった。
「お、いけそうだ。 とりあえず右腕を!」
湧き出てくる力を右腕に集中させる。
すると、右腕にスカイブルーの宝石が生えて覆ってしまう。
「成功したじゃない! さぁ、バリンッとやりなさい!」
言われるがままに洞窟の壁へと腕を振るう。
「わぁ、素敵な腕ね!」
「あー、私の鱗と同じ色だぁー」
ぐでっとしたレインがそう言う。
衝撃で砕けた宝石から現れたのはスカイブルーの鱗を纏った竜の腕だった。
「父さんの血の時より腕が軽いな」
「さっそく試してみましょう!」
そう言ってフロースは少し離れた所に氷の柱を魔法で生み出す。
「そらよっ、と!」
俺はそれに向けて思いっきり腕を振るった。
ヒュン! バリン! ズドン!
いつもの感覚で振るった腕は予想以上の速度となり、衝撃波を飛ばし氷柱をへし折ると洞窟の壁を浅くも抉った。
「…………やっべ、やりすぎた」




