理不尽な力
「フゴォッ!?」
腹部への強烈な一撃で変な声がでた。
重たい瞼を上げて見れば、母さんが俺の腹に拳を落としていた。
「朝から何やってんの!」
俺の叫びに母さんはニヤリと笑い、カーテンを開け放った。
てっきり、眩しい朝日が入ってくるのかと思ったら、やっと日が昇り始めたばかりだった。
——休みなのに平日と変わんないな、たぶん。
「さっさと支度をしろ。 外に行くぞ」
しぶしぶ起きると身支度を整えて、母さんと外に出る。
「なにすんの?」
「久しぶりに会ったんだ、五年間、サボっていないか確かめるだけさ。 もちろん、私は素手でやるから安心しろ。 お前は竜装を使っていいから全力でやればいい」
完全に舐められている——と、思うかもしれないがそうでなければまともな勝負にならない。
もっと言えば、目隠しに両手無しくらいでやっと互角程度だろう。 それくらい人外なのが竜鬼だ。
「錬成、竜装」
お言葉に甘えてシルバードを呼び出す。
「それがお前の竜装か。 名は何と?」
「えっ……」
ごく当たり前な事を聞かれたと言うのに体が硬直する。
この剣の名前? シルバードだけどなにか?
父さんの名前? シルバードだけどなにか?
…………恥っず! むっちゃ恥ずかしいわっ!
言えるわけ無——む、待てよ。
これは家族の絆を示す時ではないか?
『どこに居ても母さんと父さんを感じられるように、この名前にしたんだ!』とか言えば丸く収まるはず!
よし、言うぞ!
「あー、こいつの名前は……」
「名前は?」
「……秘密っす」
やっぱ、無理だわ。
一生、笑われろと? 俺にそんな度胸は無い。
「まぁ、良いや。 私には時間が無いから早く始めろ」
「それじゃッ!」
一気に距離を詰めると右手に持ったシルバードを首めがけて振り上げる。
母さんはそれを普通に右手で受け止める。
「狙いは悪くないが、力みすぎだな。 力を入れすぎると速度が落ちるから、もっと楽にしろ」
「それができたら苦労しないから」
バッと後ろに飛び距離を取る。
左手に魔力を集めて魔法を使い、氷の槍を飛ばす。
二本の槍が肩に向かって飛んでいく。
真っ直ぐ飛ぶ槍は少し体を捻るだけで避けられてしまう。
そこに遅れて一本、槍が飛んでいく。
——これは、当たるな。
そんなことを思った矢先、母さんは少し目を開いただけで槍を掴み、投げ返してきた。
「デヤッ!?」
眉間に当たってひっくり返る。
御丁寧に槍の先端は丸くなっていた。
「ほらほらどうした? もっと本気にならんか」
「あーもう、やったるぜ!」
俺は再び剣を構えると、母さんに向かって行った。
向かっては吹っ飛ばされ、向かっては吹っ飛ばされを幾度となく繰り返していた時、そいつはやって来た。
「クロエ!」
地面に大の字に倒れている俺と母さんの間に俺を守るように立ち塞がる。
「誰よあんた! クロエに何したの!」
「はぁ? 何言ってんだ、お前は? あぁ、その髪はアマデウス家の——」
「はああああ!」
「ストップ、フロース! その人は敵じゃないから」
ラディウスを持ったフロースが母さんに攻撃しようとしたのを慌てて止める。
「そんなこと言って、あんたボロボロじゃない!」
「いや、これは一方的にやられたというか……」
「わかってるから! あの女にやられたんでしょ!」
人の話を聞けーい!
「あの人は俺の母さんだよ!」
フロースの顔が凍りついた。




