魔竜王
「ああああああぁぁ!?」
母さんが襟を掴んだまま、もの凄い速度で走っている。
ものの十秒ほどで宿舎についてしまった。
その間俺は悲鳴をあげることしかできなかった。
眠たいとか言っておきながらあの速度は反則だろ。
すっかり灯の消えた宿舎の中に二人で静かに入っていく。
ユリアさんも今日は寝ているようだ。
階段を上がり、部屋に入ると俺はベッドに倒れこんだ。
おかしいな。 昼間の戦いより今の方が疲れてるなんて。
あー、このまま寝ようかな。
「おい、クロエ。 話がある」
唐突に呼ばれたので振り向いて見る。
そこでは、仕事をするときの真剣な表情の母さんが腕を組んでいた。
「なに? 話って?」
「行方不明だった竜王を今回の仕事で見つけた。 と言っても、あれはもはや竜王と言うには無理があるな。 生きているかどうかも定かでは無いし」
見つけたけど生きているかわからない?
「それってどういうこと?」
「まぁ、待て。 最初から説明してやる。 五年前、謎の魔物の調査の依頼を受けた私とシルバードは隣国ティタンにある森に行ってきた」
ティタン——確か、竜騎士のことを良く思っていなくて、極少数の竜騎士しかいない珍しい国だっけ。
「そこで、身体に魔石を埋め込まれた不思議な魔物の群れを見つけたわけだ。 そいつらの出所を探るために適度に間引きながら追いかけていくと、山に掘られた穴の中に入って行った。 その中で何を見つけたと思う?」
「話の流れ的に研究所か捕らえられた魔物とか?」
俺の解答に母さんは笑みを浮かべる。
「半分正解、半分外れだな。 確かに研究所はあった。 問題はそれを守る怪物だよ」
「その怪物とは?」
ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえる。
「全身に改造を施された、竜王だった物だ」
「な……!」
母さんの言葉に俺は絶句する。
レインの父親だった竜が怪物に?
改造? 誰が? 何の為に?
考えれば考えるほど疑問が浮かぶ。
「その竜王は助けられないの?」
俺の問いに母さんは苛立たそうに机に拳を落とす。
その一撃で机が粉々になる。
……それ、学校の支給品。
「無論、元に戻そうとした。 だが、腐っても竜王。 ただでさえ硬い鱗がバカみたいに硬くなってた。 そもそも助けると言っても方法がわからない」
「じゃあ、竜王はもうダメってこと?」
「それは今、シルバードが探してる」
言われて気づいた。 父さんも一緒に行ったんだった。
「父さんなら竜王を元に戻せなくとも抑えておく事はできるんじゃないの?」
主に大きさ的にね。
「昔の竜王なら止められたが、今の竜王とシルバードはほとんど互角だった。 今も戦っているんじゃないか?」
「そっかぁ……母さんはこれからどうするの?」
「実は気になることがあってな。 ティタンに居た私の手下との連絡が取れなくなった。 それを調べたいから明日には行くさ。 だけど、その前に……」
いつもの優しい顔になった母さんが飛びついてくる。
「クロちゃんの相棒とお仲間も見ておかないとね〜。 サクラナちゃんがどれくらいできるのか見てあげる」
「はははは、もう好きにして……」
どうせ止めてもやるんでしょ! 知ってるから!
「そういうことだから、クロちゃんと一緒に寝ます」
いったいさっきのシリアスムードはどこに行ったよ。
「おやすみ、クロエ」
いつの間にか母さんはベッドに入り込んでいた。
毛布くらいしっかりかけて寝てほしい。
すでに眠ってしまった母さんにそっと毛布をかけると、横に寝転がった。
「おやすみ、母さん」
机は後でサクラナが魔法で治した模様




