過保護すぎる悪魔
おもわず目を閉じた。
襲ってくるであろう痛みを歯を食いしばり待つ。
しかし、しばらくしても痛みは感じなかった。
代わりに来たのは、優しく包み込むように抱きついてきた何かだった。
恐る恐る目を開けると、艶艶の美しい赤髪が目に入った。
赤髪……まさか、ね?
ギューっと抱きついてくる力が強まる。 それもハンパなく強く。
あまりにも強い力で抱き締められたせいか全身の骨がピシピシと音を立てている気がする。
「うぉ……ぉぉ……!?」
あれぇ? 昔にも似たようなことがあったような……
この理不尽すぎる力の強さと赤髪の組み合わせの人に心当たりがあるなぁ……
ミセリアもドラゴンだから力も強いし、人化した時の髪の色も赤色だが、あの人には絶対及ばないだろう。
呆然とするガロウ校長達を尻目に、抱きついているこの人を強引に引き離し顔を確認する。
あぁ、やっぱそうですよね……
「なんで母さんがここにいるんだよ!」
「クロちゃーん! むぎゅ〜」
やはりというかやっぱりこの人俺の母さんでしたぁ!
「サクラナちゃん、クロちゃんの危機を感じてきちゃった!」
「きちゃった、じゃないから! 今、どういう状況かわかってます?」
「うーんっと、危機的状況ってやつ? だから来ました! クロちゃんの敵わぁ……消滅? させるよぉ?」
なんで疑問形だっ!
真剣に悩んだ末にそれかいっ!
「消滅させなくていいから! ……あぁ、もう! 国王が武器持ってるじゃん! ちょっと説明するから、待ってて!」
もの凄く笑顔な母さんを無理矢理ソファに座らせて、ガロウ校長達に向き直る。
今さらだが、俺の首に手を当てていた金髪イケメンは母さんに腕を切断されていた。 肩からズバッと。
床では切断された腕が僅かに動いている——蜥蜴の切断部位みたいに。
それは一旦置いておこう。
今は国王とガロウ校長の説得だ。
このままでは、国家反逆者としてカエルム竜騎士学校を追われてしまう。
いや、もしかしたらとっくに国家反逆者かもしれない。
両親がやったことを考えれば、普通にあり得る。
さてさて、武器をも取り出した国王の説得から始めようか。
「あのー、国王さんちょっとお話ししませんか?」
「……いいだろう。 その前にルドベックの治療をしても良いか? 我の友であり相棒なのだ」
あぁ、あいつルドベックって言うんだ。
「まぁ、良いですよ。 今度何かしたら母さんに殺されますよ?」
「わかっておるわ。 アレには敵わぬ」
渋い顔をしながら素直にルドベックの腕を直している。
母さんはつまらなそうに治療を眺めている。
普通の魔法を使ってるし母さんからすれば無駄も良いところか。
あ、この間にガロウ校長の説得を。
「あの、ガロウ校長。 今日のことですが……退学とか、ですかね?」
俺の問いにガロウ校長は紅茶を飲んでから答える。
「そんことにはならないよ。 その方はサクラナ様なんだろ? 私はサクラナ様に恩返しするためならなんでもするさ」
太っ腹っす校長!
あーあと、マグニフィカトにも話しとくか。
〔うっす、マグニフィカト。 お前、説明いる?〕
なぜかマグニフィカトは全身の毛を逆立てていた。
〔お、お前! あの女は竜鬼ではないかっ! 我を殺すきか! 竜鬼が何をしたか知らぬわけなかろう!〕
そっすね、親子ですから——なんて口が裂けても言えない。
おっと、国王も話す準備ができてるようだ。
国王とルドベックが母さんの目の前にどかっと座る。
俺が話そうとした時、母さんが立ち上がった。
次の瞬間には国王の胸ぐらを掴んでいた。
「おい貴様。 私たちのクロエに手ェだそうとしたよな? このまま穏便にすむと思ってねーだろうなぁ?」
や、やべぇ。 母さんが怒ってる。 本気の殺気を国王にぶつけている。
常人ならこの時点で気が狂って死んでいたかも。
さすがと言うべきか、ガクガク震えているものの決して目を逸らそうとしていない。
国王としての意地でもあるのだろうか。
ドンッと音が鳴るほど強く床に頭を擦り付けてルドベックが土下座をしていた。
「サクラナ様! 先ほどの無礼、誠に申し訳ございません! この者は国を思って行動しただけで悪気は無かったのです! 私はどうなっても構いません! どうかこの者の命だけはご慈悲を!」
しばらくルドベックを見ていた母さんは不意にルドベックの首に手を当てた。
「ストップ、母さん! それはダメだから! もう許してあげて! 俺は大丈夫だから! 母さんのお陰でね? ね?」
母さんの顔が明るくなる。
「そうなのぉ? サクラナちゃんがクロちゃんを守りました! えっへん! 仕方がないのでぇ〜、貴様らを許してやろう。 クロエに感謝するがいい」
あっぶねー。 危うくルドベックが死ぬとこだった。
首に手を当てたくらいじゃ死なないだろうって?
アレは本人曰く首の血管の切断、筋肉繊維の崩壊、体温の急上昇、首の形を保つための結界の四つの魔法を同時に使っているんだとか。
アレをくらったら最後、血を噴き出しながら絶命する。
アレはマジでやばかった。 初めて蜥蜴の再生を見たときくらいやばかった。
くいっくいっと袖を引っ張られる。
そこには眠そうに目を擦る母さんがいた。
「クロちゃん、サクラナちゃん眠たいです。 ということで、クロちゃんの部屋に行きます!」
「……は? え、帰らないの?」
「もう夜なのでサクラナちゃんは寝なければなりません」
ガシッと襟を掴まれる。
え? え?
母さんが空いてる拳で壁を殴ると、まるで紙を殴るかのように穴が開く。
青ざめる国王と笑みを浮かべるガロウ校長を最後にちらっと見るとそこから飛び降りた。
あああああああああああぁ!!?
木曜日に投稿予定です




