疑い
着替えを済ませ、軽い足取りで階段を降りて食堂に入るとすぐにフロース達を見つけられた。
もう夜遅いせいかちらほら席に座る人がいるだけで食堂はガランとしていた。
「あ、クロエ。 こっちこっち」
俺に気づいたレインが手招きをしている。 場所はいつものように端っこの席だ。
「悪いな、遅くなって」
手を合わせながら席に着くと冷たい水で喉を潤す。
キンキンに冷えた水は喉の渇きと共に残っていた血の味を消してくれた。
別に血の味が嫌いなわけじゃないけど。 むしろ好き?
「ちょっとクロエ! あんた腕の傷はどうしたのよ!」
「治った。 いや、治したと言うべきか? 俺って傷の治りがやけに早いじゃん?」
半竜なんで。
「それがおかしいって言ってるの! 先生は二日は様子見って言ってたの! だから決勝は諦めようかって話をしてたのに……」
おーとっ、俺がいない間にそんな大事な話をしていたとは。
しかし、ご安心を。
私はここにいますよ。
「なら良かったな。 俺、復活。 明日の試合もバッチリだぜ」
「は?」
ギロリ
アティアに睨まれた。
その目は、『何も知らないのですか? いちいち説明しないとわからないとは、ウザいですよ』と言っていた。
自覚があるだけに弁解の余地もない。
「お願いします。 教えてください」
「明日は二日間の疲労抜きと闘技場の修復だそうです。 竜騎士といえど流石に三日間連続の試合は辛いだろうと。 校長曰く、互いに疲労していては楽しい試合にはなるまい、と」
「それ絶対あの人が楽しみたいだけでしょ。 闘技場の修復以外納得できんわ。 第一に、実際の戦闘じゃ休憩なんてないぞ?」
「さっきまで気絶してたくせに。 戦場だったら死んでたよ?」
「お前らが助けてくれるって信じてた」
「まぁ、そうだけど……」
フロースはどうにも煮え切らないようだ。
バンッ!
突然、食堂の扉が勢いよく開かれた。
全員の視線がそちらに向く。
そこでは、ユリアさんが膝に手をつき息を荒くさせていた。
ガバッと顔を上げたユリアさんが俺たちの方に歩いてくる。
「クロエくん! 今すぐ私と一緒に来て!」
「ちょ……え?」
腕を掴まれ強引に引っ張られる。
あっという間にユリアさんのドラゴンであるハクに乗せられてしまった。
すぐにフロースの意識を探して話しかける。
〔よくわかんないから、今日は戻ってくれ。 悪いな〕
〔もー! 明日、話聞かせてもらうからね!〕
〔りょーかい〕
意識を戻すと、ハクは着陸態勢に入っていた。
かなり、急いでいるようだ。
「さぁ、早く!」
着陸したと思ったらユリアさんが足早に歩いて行く。
俺はそれを走って追いかけた。
階段を上ったり長い廊下を歩いて行くと、見覚えのある扉の前でユリアさんが止まった。
「竜騎士長ユリア・リアーナ、並びにクロエ・ドラグーン参りました」
「入っていいよ」
中から最近聞きなれた声が許可を出したので中に入る。
中では三人と一匹が座っていた。
案の定と言うか声の主であるガロウ校長とマグニフィカト。
驚いたことに国王であるケルタ・アルボス・ランスソードがいた。
『様』をつけないのかって?
両親に比べたら全く怖くないね。
もう一人は金髪のイケメンだった。
「校長、国王様。 クロエ・ドラグーンを連れて参りまし」
「はい、ご苦労様。 今日は戻っていいよ」
「それでは、失礼します」
おもわず模範にしたくなるような綺麗な敬礼をしたユリアさんは外に行ってしまった。
さて、目の前にはガロウ校長と国王が座っている。 あとイケメンと猫。
はっきり言って気まずい。
「クロエくんもそんなところに立ってないで座りなよ。 はい、紅茶」
「は、はぁ、ありがとうございます」
あっ、この紅茶すっごい美味しい。
「さっそく本題に入りたいんだけど……クロエくんって何者?」
「ブフッ!」
思いっきり紅茶を吹いてしまった。
いくら何でもいきなり聞くかそれ?
「何者……とはどういうことでしょうか? この通り、俺……私はただの一生徒にすぎませよ?」
「それはどうだか……」
それまで無言だった国王が口を開いた。
「悪いが君のことを少し調べてもらった。 そしたらどうだ? 書類の不自然な点の多さや、今日の試合の様子。 極め付けは二頭のドラゴンだ。 君は何か隠していないか?」
俺、半竜っす——とは言えない。
確かに隠していることは多いが、何か墓穴を掘るようなことをしたか?
やはり、今日の試合がいけなかったのか?
ちらりとガロウ校長を見るがとても助けてもらえそうにない。
ふと、首筋に冷たい刃を当てられたような感覚を感じる。
「これはどういうことですか?」
俺の首筋に手を当てていたのはあの金髪のイケメンだった。
「悪いが君は不確定要素が多すぎる。 私は国王だ。 君が他国のスパイとも限らない今、現場の判断で決めるしかない」
「……私は……この国の者ではありません」
イケメンの手に魔力が流れるのがわかる。
「そして、他国の者でもありません。 私はどこの者でもない」
国王が静かに目を閉じる。
その隣ではガロウ校長が紅茶を飲んでいるのだが。
「やはり、君は危険な存在だ。 昼間のあの技は遥か昔に失われた治療の『概念』そのもの。 あの危険な技があるということを世間に知られるわけにはいかない。 私は戦争をしたいわけではないのでね」
あれ? もしかしてヤバイ?
予定では他国のスパイじゃないとわかって解放されるはずだったんだけど……
さて、どうしたものか……
「すまない。 この国の為に消えてくれ」
国王がそういった瞬間。
床を鮮血が汚した。




