傷喰
俺は改めて空を飛ぶことへの快感を得ていた。
眼下に見える人が蟻に見えてしまう。
普段、ドラゴンの背に乗ってばかりで味わえない浮遊感。
全身を叩きつけるかのような強風。
そして、俺を地面へと引っ張る重力。
そう、俺は今、空を舞っていた。
アティアによりレインの背めがけて投射された俺だが、二頭のドラゴンによる集中攻撃を食らっていたレインは絶えず動き回り、絶賛レインの足元に向かって飛んでいる。
〔やはり無理であったか……〕
しみじみと呟いてみる。
〔クロエ、後ろ!〕
アティアの声にハッと振り向く。
そこにはレインを攻撃しよう振り上げられた前足があった。
俺は考えながらも飛ばされていたのだ。
とっさにシルバードで直撃を防ぐも、空中で踏ん張りがきかないせいであっけなく吹っ飛ばされる。
「ぐっ!」
硬いものに背中を強打した。
「壁にたたきつけられたのか? それとも落ちたか?」
起き上がりながら周りを見渡す。
しかし、目に映ったのはゆっくりと羽ばたく青い翼だった。
バッと足元をみる。
〔レイン!〕
どういうわけか俺はレインの背に乗っていた。
〔あぁ……クロエ大丈夫?〕
そう聞かれるが、明らかにレインの方が重症だった。
翼の飛膜を引き裂かれ、全身に牙や爪による傷がある。
中でも酷いのが後ろ左足の深い切り傷だ。
牙や爪では無くもっと鋭利な『刃』でつけられたものだ。
傷口から溢れ出る血はジワジワとレインの体力を奪っている。
〔……今直してやるからな、レイン〕
〔えっ!? クロエは回復魔法はほとんど使えないはずでしょ? どうやって……〕
まぁ、そうなるわな。
だって俺、回復魔法使えないし。
今からやるのは回復魔法の元になった技。
母さんに教わった秘術。
〔いいから、お前は回避に専念してくれ〕
そう言って俺は左手に魔力を集中させていく。
これで魔法を使ったら明らかに失敗するレベルの量だが関係無い。
何せ魔法じゃ無いからな。
ほんの数秒ほどで腕が熱を帯びるほどの魔力が溜まった。
まだ込められそうだが、反動が大きいからこの辺でやめておこう。
レインの背に熱くなった左手を添え静かに言葉を発する。
「傷喰」
その途端、左手から溢れ出した禍々しい赤い光がレインの全身の傷口を覆っていく。
「喰ラエ」
発せられた言葉に反応するかのように光は傷口へと入り込む。
瞬間、みるみるうちに傷口は小さくなっていった。
〔えっ? あ、あれ? 傷が……〕
レインは困惑している。
しかし、その羽ばたきは以前のようにしっかりとしたものになっている。
全ての傷口が塞がると、光がひとまとまりになり俺の左手へと戻ってきた。
——ここからがこの秘術の欠点となる部分だ。
大きく息を吸い込むと意を決して最後の言葉を発する。
「戻セ!」
言葉を発した瞬間、光が腕へと入り込んできた。
光が入るとともに左手に激痛が走る。
「ぐっ……!」
歯を食いしばり痛みに耐える。
〔クロエっ! どうしたの!?〕
レインの声がどこか遠くに聞こえる。
数時間かと思うような数秒ののち、痛みが引いていく。
ふと見た左腕は大量の血で真っ赤に染まっていた。
視界が横転し、俺はレインの背に倒れこんだ。
やっぱ終わらんかった
スンマセンスンマセン




