狩猟本能
俺たちが第二闘技場に着いた時には既に観客席は満席で活気に満ちていた。
円形の闘技場をぐるりと見渡せば、所々に国のお偉いさん達がいるのがわかった。
それぞれが生徒たちを吟味するかのようにじっくりと眺めている。
たぶん、優秀な竜騎士を見つけたら卒業後に勧誘するのだろう。
しばらく見ていると俺は、お偉いさん達の中に気になる人を見つけた。
「なぁ、フロース。 あれってクズイヌの親父じゃないか?」
隣に立っていたフロースを呼び、指でさししめす。
フロースは俺が示した場所を見ると、うんざりしたように手を振った。
「そうね。 息子の応援か、生徒の視察ってところじゃない?」
「だろうな。 ……あれ? でも、あの人が見てるのってユリアさん……だよな?」
「はぁ!? そんはずは……本当だ……キモっ!」
改めてあの人の目線を確認したフロースが叫ぶ。
クズイヌの親父さんは確かに、白いドラゴンであるハクに乗り生徒達を整列させているユリアさんを凝視していた。
ちなみに、ユリアさんの目の前には一班であるクズイヌがいるのだが、そこには見向きもしていない。
自分が見られていると勘違いして手を振っているクズイヌが何故か可哀想に見えた。
「そこっ! 早く整列しなさい!」
クズイヌの親父さんに気を取られすぎてユリアさんに怒られた。
まぁ、自業自得ってね。
しばらくして一年生全員が整列を終えると、開会式が始まった。
それぞれのクラスの担任が挨拶をして、会場の審判役の竜騎士がルールを説明していく。
その次が対戦相手の発表だ。
一組から順に発表されていき、いよいよ六組だ。
六組の前に紙を持ったユリアさんが歩いてくる。
「それでは六組の組み合わせを発表します。 一回戦は六班対八班、二回戦は五班対四班、三回戦はニ班対七班、四回戦が一班対三班です。 一回戦はこの後すぐに始まるので準備をしてください。 それでは健闘を祈っています」
そう言ってユリアさんは一礼すると行ってしまった。
それを期に集まっていた生徒たちは一斉に解散しだした。
俺とフロースは後ろの列に並んでいたレイン達を見つけると、控え室に移動した。
控え室にはマグニフィカトが丸まっていた。
「なにしてんの?」
ベルトを締め直しながらそう聞く。
〔特には。 ここから先は公平さを欠くから口出しはできぬ。 ゆえに作戦も無い。 お前達でやれ〕
「最初からそのつもりだっての」
〔そうか。 頑張れよ〕
ガラにも無いことを言うと、尻尾を振りながらどこかに行ってしまった。
「なんなのかしらねぇ。 それより作戦だけど何かある?」
準備を終えたフロースが聞いてくる。
俺はニヤリと笑うと、考えていた作戦を話し始めた。
「この作戦にはお前達ドラゴン組に頑張ってもらわないといけない」
◇◆◇◆◇◆◇
『さぁ、始まりました、カエルム竜騎士学校クラス代表決定戦一年の部! 解説は私、三年三組ゼルア・イブリーアが務めます!』
拡声器からやたらと高いテンションの声が聞こえる。
正直、ウザイ。
目の前で六班の奴らが睨んできている。
現在俺たちは闘技場の中心で向かい合っている状態だ。
レイン達は既に人化を解いてドラゴン状態だ。
それは六班も同じで、開始の合図を待つばかりである。
「……ぶっ潰してやる!」
なんか体格のいいリーダーらしき男が挑発してきたんだが。 脳筋か?
なお、名前は忘れた模様。
フロースも俺も反応はしない。
そこでユリアさんが歩いてきた。
「私の合図で開戦です。 両班、全力でやるように。 それでは——始め!」
ユリアさんが火の玉を打ち上げると同時に俺はレインの元に走り、鞍に飛び乗った。
〔行くぞ! レイン!〕
〔いくよー!〕
元気な返事とともにレインは翼を広げ飛び上がる。
右手のフロースとミセリアは飛ばずに魔法陣を大量に展開している。
アティアは合図ともに飛び上がっていたので今でははるか上空だ。 それに加え、魔法で霧を出しているため下からでは視認できない。
ここまでは作戦通りだ。
〔レイン、まずは撹乱いくぞ〕
レインにそう伝えると俺は、シルバードを呼び出す。
返事は来ないがレインは六班に向かって飛んでいくのがわかる。
六班はあの脳筋を先頭にして四角形を形作っている。
基本的な陣形だけど、俺の作戦的には何の意味もなさ無いな。
レインは四角形のど真ん中に飛び込んだ。
それを避けるために陣形が崩れる。
そのままレインは右手にいる茶色のドラゴンに向かって炎を吐くと、左手の黄色のドラゴンに突進をする。
その間俺は残っていたドラゴン二体に氷の塊を飛ばしていた。
氷は水と違い当たると痛いし何より燃費のいい魔法だ。
俺とレインの攻撃に六班のメンツは陣形を作り直せず慌てていた。
時折、攻撃を掻い潜ってレインに向かってくるが、地上にいるフロースが魔法で妨害をしているので防戦一方だった。
〔ナイス、フロース。 そのまま支援頼む〕
〔任せてよ! やばくなったら補給するからね〕
意識を繋げ礼を述べる。
戦闘中に声を出すのは相手に作戦をバラすようなものだからだ。
しかし、あの脳筋は、
「拉致があかない! ここは、俺たちで抑えるからレナは地上にいる奴を倒せ!」
がっつり声に出してんよ。
というかやっと、動き出してくれたか。
相手が単独行動するこの時を待っていた。
一人フロースに向かっていった茶色のドラゴンを一瞥すると、アティアに合図をする。
〔アティア、獲物だ〕
〔わかりました〕
アティアの返事を確認すると、俺たちは相手の妨害に集中する。
茶色のドラゴンがある程度離れた瞬間、霧を突き抜けてアティアが飛び出した。
翼を胴に巻きつけることでかなりの速さを生み出している。
「ガアアアァー!!」
突然のことに対応できていない茶色のドラゴンはアティアに首を噛みつかれ、ジタバタしながら墜落していった。
ドオォンッ!と大きな音を立てアティアが茶色のドラゴンを地面に叩きつける。
そこまでやるとアティアは再び霧の中に姿を隠した。
叩きつけられた茶色のドラゴンはなんとか立ち上がるも、いつの間にか近づいていたミセリアに対竜格闘術で投げ飛ばされると、動かなくなった。
〔まずは一匹。 さぁ狩りの続きと行こうか〕
俺は脳筋を見ながらニヤリと笑った。
クロエには解説の声は聞こえていないのです
決して解説がサボっているわけでは無いのです




