半竜、思い出す
俺は今、竜舎に向かって全力疾走している。
俺たちの宿舎から竜舎まで距離にして約5キロ。普通の竜騎士なら早くとも十分はかかるであろう距離を俺は、その倍の速度で走っていた。父親がドラゴンな俺にはこれくらい余裕。もう気づいている人もいるかもなんで言っちゃいます。
俺、半竜っす。
ふぅ、やっと言えたぜ。まだ一人にしか言ってないんだよなぁ。色々面倒いから。
半竜はとても珍しい存在でもし見つかったりでもしたら、人間に体を調べられるかドラゴン族に神竜——ドラゴンの力と人間の技を使い二種族の架け橋たる存在——として祭り上げられたりしてしまう。
かといってツノがあったり翼があるわけじゃない。ないこともないけど。
見た目人間、中身ドラゴンってところかな。昼間はわからないけど夜になると、うっすら目が光ったりする。筋力も他の竜騎士の二、三倍はある。まぁ、剣術が上手いわけじゃないんで強い人には負けますよ。基本力技なんで。
魔力も他より多いけど制御が下手なもんで、炎の玉を作ろうとして、敵も味方も大爆発で吹き飛ばしてからは封印している。
半竜ってのも難儀なもんですよ。
そんなこんなで気付けば竜舎の前まで来てたよ。危うく、突っ込むところだった。
目の前にあるのは、レンガ造りの茶色っぽい建物。全体的な形としては円形競技場のような形だな。真ん中が戦闘訓練用の広場になってる。
竜騎士の宿舎は木造だが、巨大なドラゴンが体を休めるための竜舎はドラゴンの寝返りや高い体温から破壊されるのを防ぐためレンガ造りになっている。
そんでもって誰が見ても最初に思うのは、でかい。とにかくでかい。その一言に限る。
宿舎が三階建建て高さ10メートル横幅30メートル奥行き15メートルだとすると、竜舎は二階建て高さ40メートル横幅200メートル奥行き50メートルってところかな。一階と二階にはそれぞれでかい出入口がポッカリ空いている。ドラゴンが帰ってきてそのまま部屋に戻れるようにだ。ほとんどの部屋に出入口があるから外から見れば、巨大イカのゲソに見えなくもない。
「てか、早く着きすぎたな。 フロースを待つか、先に相棒達を呼ぶか……」
制服の胸ポケットから魔力時計を取り出して時間の確認をする。この時計は周辺に浮いている魔力を自動で吸収して半永久的に動く優れもの。10の時に母親に貰ったものだ。
「……まだ六時か。 素振りしながらフロースでも待つかぁ」
そう言って俺は両手に魔力を溜めて呟く。
「錬成、竜装」
そうすると光とともに右手に白い剣が、左手に黒と赤の鎌が現れる。
これは竜騎士がドラゴンと絆の契約を結んだときに生み出される、竜装と呼ばれる武器だ。なんの素材で作られたかはわからないけど、軽くて頑丈な武器だ。竜装にはそれぞれ名前があったりする。持ち主が自分でつけることができるからな。
ちなみに俺の竜装は白い剣の方が、竜帝黒と赤の鎌が、竜鬼だ。竜帝は一族最強のドラゴンで今は行方不明、竜鬼は二百年前にドラゴン族を片っ端から殺し回ったとされる竜殺しの女性だ。その時にあるドラゴンと何度も相討ちなるにつれてそのドラゴンが好きになり『邪の道に堕ちたドラゴンだけを狩り、ドラゴン族を守る』とかなんとか誓いを立ててそのドラゴンと結婚、その後行方不明らしい。その竜鬼が使ってたのも鎌だったらしくてこの名前にしたんだが……
正直、恥ずかしいよ! 俺もわかってるよ!こいつアホなのかって。 でも、名前を付けた時は『これだって!』って思ったんだよ!人間誰だってかっこいい名前の方がやる気でるじゃん? 俺、半竜だけど。あーなんか思い出したら涙がちょちょぎれてきた。
気を取り直して素振りでもしようかなと思ったら、
「せいっ!」っと、可愛らしい声を発した青い何かに突き飛ばされた。
俺は「ぐほぉっ!」っとなんとも惨めな声をあげながら20メートルも飛んで行く。
あっれー? 俺って半竜だから結構重たいほうなんだけどなぁ?
次でやっとドラゴン出せそうです。
うまくかけるかなぁ