無詠唱
「ねえ、クロエ。 さっき呪語なしで魔法使ってなかった?」
フロースの唐突な質問にクロエはビクリとした。
「いやー、気のせいじゃないかなぁー?」
「ほんとに?」
間延びしたクロエの返答はフロースに余計な疑念を抱かせた。
〔私もそうだと思いますが?〕
寝そべっていたアティアが話に混じってくる。
「だろ? 俺が無詠唱なんてできるわけないって」
うんうんと仕切りに頷くクロエにアティアは、
〔いや、無詠唱で魔法を使ったと思うほうです〕
「え……」
クロエは焦った。
アティアも自分のことを疑うとなると隠しきれるとは思えなかった。
無詠唱はそのまま意味で、呪語無しで魔法を使うことである。
いつかの時にクロエがガロウ校長の部屋で読んだ本に書いてあることをクロエは図書館に行って調べていた。
『魔法を形作るのは魔力ではなく、その魔力で想像し、形作る思念と力である』。
このことについて調べているうちにクロエは無詠唱はあるドラゴン以外成功できなかった方法であると知った。
そのドラゴンの名前は竜帝。
クロエの剣の名前の由来になったドラゴンだ。
この日からクロエは、
(半竜の俺ならできるだろ)
そう考えひたすらに練習を繰り返した。
その結果使えるようにはなったが使いどころが無かったのだ。
それに、無詠唱が使えるなんて知られては正体がバレかねないと思い隠そうとしたのだが、この結果だった。
アティアとフロースに勘付かれているのだ。
だが、クロエはまだ諦めていなかった。
「アレはアレだよ……風の膜を作って周りに音が聴かれないようにね。 本当だよ?」
背中で冷や汗をかきながら悪あがきをした。
「そうなの? まぁ、クロエにできるわけないか」
〔それもそうですね。 できるわけないですよ〕
疑いが解けたものの、クロエはダメージを負っていた。
(できたから! 言わないけどできたから!)
そんな心の叫びは誰にも聞こえない——はずだった。
〔ほほう、無詠唱が使えるのか〕
あまりに突然のことにクロエは一瞬呆然とした。
アティアとフロースまでもびっくりして、クロエを見ていた。
マグニフィカトがこうもアッサリと秘密をバラすとはクロエは考えなかった。
そして、
(まだ、いたんかい!)
てっきり帰ったかと思ったマグニフィカトにツッコミを入れる。
そこにフロースがもの凄い勢いでクロエに詰め寄る。
「ちょっとどういうこと!? 無詠唱ってなによ! 私たちに隠す必要無いじゃない!」
「いや、だって、隠し球は隠さないと意味ないし……」
味方に隠してどうするの!」
「……ごもっともで……」
そこに人化したアティアがやって来た。
「何故! それを! 早く! いわないの! 無詠唱ができれば大幅な戦力アップに繋がるじゃないですか!」
げしげしと殴打される。
「……ごもっともで……」
「第一、私たちに相談せずに一人で調べるなんて——」
「姫様にくらいに教えてくれても良かったのではありませんか? 一人だけ——」二人からの言葉責めにクロエは面食らった。
「レイン助けて!」
クロエは椅子に座っていたレインに必死に助けを求めた。
「えっ? どういうこと?」
一瞬驚いたレインは少し考えると、
「お姉ちゃんたちが怒ってるならクロエが悪いんだよ?」
笑顔でそう言うと片付けに行ってしまった。
「まってくれー! レイン、待って!」
クロエの悲鳴が闘技場に響いた。
遅くなってすいません
次は22時予定です




