空を穿て
例え1秒でも・・・その1秒が欲しかった。
文哉は今まで自身の能力を友好的にしか使ってこなかった。
親類や親友の気配を出し、対象が好む匂いを出すことで友好的な雰囲気を強制的に作り出し、自分達に協力するように、絵美の指揮指令がかかりやすいように能力を使用してきた。
だが・・・だが、逆に使った場合はどうなるのだろうか。今まで考えて来なかったが、相手の認識を変えることが出来るなら、親仇にも慣れるのではないだろうか?相手の好きな匂いを出せるということは相手が嫌う匂いも出せるのではないか?
認識を新たに誠司は文哉の肩越しに魔王を睨む。
「僕を憎め・・・僕を恨め・・・僕を嫌え・・・」
呪詛を吐くように、相手を嫌悪し憎悪する、同じ空気を同じ空間にいるのも嫌であると、相手に憎しみを叩きつける。
誠司が発する威圧は文哉や絵美、それに優子にはなんら効果を表さなかった。
しかし、向けられた魔王はそうもいかなかった。
今までは誠司達は取るに足らないと、しかし眼前の奇妙な人間の枷になるかと牽制程度に腕を振るうくらいだった。
それが一瞬、一秒にも満たない時間であったが誠司から発せられた雰囲気に当てられ動きを止め、文哉のすぐ後ろにいる文哉を注視してしまった。
だが、魔王故に精神耐性は他の怪物とは比べ物にならないくらい高い、誠司懇親のガンつけはほんの少しの隙しか生み出せなかった。
だが、それでも誠司と文哉はお互いの顔が見えないのにも関わらず、同時にニヤリと笑う。
<矛盾再設定 右矛20 左矛20>
ミチミチと自身の両腕から発する音を無視して誠司は魔王に突撃する。両腕を換装する時間は誠司に稼いでもらった。
見た目と雰囲気を豹変させた文哉に魔王も警戒したのか、下がるように身体を動かし、ついでに誠司達の方に攻撃するそぶりを見せる。
「させるかよ!」
距離を詰め、自身を省みないレベルでの両腕の強化は腕を容易く切り裂いた。1本を斬りそのまま2本を斬り飛ばし、3本目は勢いが足りなかったのか、半ばまで食い込んだが、それも内部で爆発が起こったのかのように白い光とともに爆散する。4本目5本目は左右から誠司達を狙うように伸び続けていたが、誠司達にたどり着く前に文哉が魔王の前に到達し、広げるように振るった両手の矛により根本から斬り飛ばされる。最後の一本は広げた両手を交差させるように斬りかかる攻撃を防いだ為切り刻まれた。
太い腕は再生に時間がかかるのか、下がりながら散発的に細い腕を出す魔王だったが、誠司が追いすがりながら斬り飛ばすので時間稼ぎにもなっていない。
そのまま文哉と魔王は部屋の中央まで移動した所で、文哉が魔王を完全に捉える。
文哉の方も両手の変化に身体がついていけていないのか、武器のつけねと仮面の目の部分から血を流していたが、文哉は止まるつもりはなかった。
「があああああああああ」
獣のように咆哮しながら文哉は魔王を切り刻んでいく。
そして。
「僕を恨め!呪え!お前は僕の・・・僕達の敵だあああああ!」
文哉が駄目押しとばかりに深海の魔王に敵意を飛ばす。
二度目だからか、誠司に目を向けることはなかったものの、意識が分かれ、隙が出来た魔王に
「これで」
<矛盾単一強化 右矛40 >
右腕のみを文哉は強化する。出来上がった槍は完全に文哉の腕と同化し、石突にあたる部分には穴があいており、その穴から排熱するかのように蒸気を噴出し推進力に変え、白く輝く先端は絶えず明滅を繰り返しながら魔王に突き刺さる。
「吹き飛べええええええええ!」
爆発音を生み出しながら魔王が刺さしたまま頭上に掲げた文哉は、自身の脳内でスイッチを押す。
ズドンズドンと、排熱と一緒に槍の先端から白い奔流が放たれ、一撃毎に魔王が白い輝きと共に上に上がり、ついには洞窟の天井にぶつかりそれも突き破り上へ上へと上がっていく。
「うぉぉぉおおおおおおおお!」
未だ魔王の生命の輝きが消えていないのは仮面の能力で解っている。だから攻撃の手を緩めるわけにはいかない、一撃毎に生命の輝きが明滅している、確実に効いているのだ。例え、腕が千切れようが、頭を締め付けるような痛みに襲われていようが今止める訳にはいかなかった。
「がぁぁぁぁあああああ」
さらに数十発は撃っただろうか、文哉も顔を俯かせ、されど右腕だけは頭上に掲げ、弱々しくはなっていたが光の爆撃は止まらない。上から降ってくるはずの土砂は光の奔流毎消し飛ばされているのか、パラパラと砂が落ちてくる程度だ。
やがて、数十メートルの壁を越えたのか、上に空いた穴から文哉の右腕の輝きとは別の温かい光が降り注いだ。
それと同時に文哉はようやく右腕を降ろし、能力を解除し、力なく崩れ落ちた。
されど、うつ伏せに倒れるようなことはせずに、自身で空けた穴の向こうを見るために仰向けで倒れる。
「お疲れ様文哉」
「さすがに疲れたよ、誠司・・・魔王は倒せたか?」
「正直どうなったかわからないけど、これで倒せてなかったら諦めるしかないな」
傍によった誠司も魔王に全力で能力を使用したせいか、大分精神を消耗していたが絵美や優子と一緒に文哉の介抱を始める。
上からは砂が散発的に落ちてくるだけで、柔らかな陽の光の下で文哉は意識を失った。
そして、空いた穴から深海の魔王が纏っていたボロ布が4人の目の前に落ちてきたのだった。
主人公のイチャコラを書いてるとピキピキくるが、書かないでいるとそれはそれでイライラする、どうしよう!?
「早く終わらせればいいと思うよ?」




