#37 憧れ
「『魂ノ彷徨イ』」
ジェルナの放つ魔法はこれといって速いわけでもなく、遅くもない。その青い火玉の魔法が一つ俺へ向かってくる。
しかし何故だろうか、避けようとは思えなかった。避けなくても耐えれる自信が湧いてきたのかそれとも、この魔法に俺が惹かれているのかわからない。
そして俺の胸に差し掛かり。
そしてヒューと俺の胸を抜け、消えた。
すると突然、俺の胸に激痛が飛び出してくる。あまりの痛みに膝をつけも掻き苦しみ、胸を抑えた。
しかしいくら胸を抑えても激痛が通り抜けることはなく、身体の中に留まり続けている。
あガァあああああ。痛い、痛いいたい、いてぇ。
苦しい、呼吸ができない。死ぬ死ぬ死ぬ。
「あゔああ! はぁ、はぁはぁああ!!!!!!」
そのジンの滑稽さに、ジェルナは腹を抱えて笑う。
「その魔法は確かに必中ではあるが、少しの魔力操作で身体を覆うだけで弾けるというのに、まさかそれもできないとは!!」
ジンはそんな言葉耳には入らず、生きるのに必死で、叫び叫び叫んだ。
「ううはぁ、はぁはぁ、……いたくはなくなった。まだまだ……これからだろ……? はあ、はぁ」
歯を食いしばりなんとか、地面に立ち上がる。そして、腿を抑えながら無理に吐き出した。
やだいたい、いたい。
胸を槍で刺されたような痛みが、ズキズキと体へ迫った。それは恐ろしく、ジンを死の淵へ追いやった。
いまだに残る、痛みの感触、慣れない身体の内部の痛みが響き渡った。
「ほう、即死せずに生きながらえるとは、さては固有スキル持ちだな、魔王軍幹部? いや、勇者か?」
「……はぁ、ゆ、勇者だ……勇者」
「やはり勇者か、懐かしいものだ。私も過去に勇者を殺したことがあってな、まあ、ソイツ貴様と違い何倍も才能があり、何倍も才能に恵まれていたがな?」
痛みのせいで、思考がまとまらない。話していることが一向に入ってこない。
「そう言えばあいつは、私を殺せたのだったな。しかし国の命を優先していたは。ふん、貴様とよく似ているではないか。全く、人間とやらは尋常深いものだ」
「はあ……」
今にも倒れそうな身体をなんとか支え、爪を胸に突き刺した。
「さて、次で終わりだ『魂ノ彷徨イ』」
青い人魂が俺の胸元へ向かってくる。
俺はなんとか必死に逃げる。しかし今の状態では逃げ切るなんてできなかった。
そしてジンは目を閉じて。死を覚悟した。
その光はジンの胸を通り越した。
しかしジンは痛みを感じない。
そして先程まで狂うように痛かった、胸の痛みも自然と回復している。
「何故貴様、平気でいるのだ!?」
ジェルナは焦りながらそう呟く。
そうだ、俺は強い。どんなものにも負けたくない意思がある。
そして馴染みのあるこの感覚、俺は……
「お前の魔法に俺は適応したんだ」
燃えるように高ぶる気持ち。きた、この感覚。俺は調子に乗った。
そして、まれに発動する俺の固有スキル、発動条件それは……
“強い憧れ”
俺は憧れがあればそれに適応することができる。
「何を馬鹿気た事を言うか! そんな訳……」
そして俺は良い事を聞いた。
ジェルナは過去に勇者アサキに負けかけたことがある。
つまり、俺が勇者アサキへ向ける強い憧れ、すなわちジェルナに勝ちたいという意志は適応される。
俺は勝利を手にした気がした。
「……『重力操作』……」
ジンの囁きに、ジェルナは顔面蒼白にした。
夏が恋しい




