#32 双方の気持ち
「ジェイズ!!」
勢いよくドアが開き、女性と小さな子供が出て来た。
「俺はジンといいます……大事なお話があるのでここに来ました」
その女性の晴れていた表情もジンの暗い顔を見て何かを察したのか、ジンのように暗くなった。
「……とりあえず中に入ってください」
女性は俺を家に招き入れ、椅子に座らせた。
そして女性は子供を抱えてどこかに置いていき、女性は俺と向かい合う形で椅子に座った。
「それで、お話とは?」
力強く言ったつもりだった女性の声は悲しみを隠しきおらず、震えていた。
「……ジェイズさんは昨夜の戦いにて戦死しました、これはジェイズさんのものです」
糸が綺麗に切れたペンダントを机の上に置く。
女性は堪え切れなかった涙をポロポロと吹き出しながら、ペンダントを受け取る。
ジンも釣られて涙を流しそうになるがここは自分の泣くばめんではないと思い、ぐっと押さえ込んだ。
「なんで、なんで、ジェイズは……死んでしまったんですか……?」
声を振るわせそう呟く。
ここは全て真実を語るのが正しいのだろう。
「ゾンビに噛まれたことにより、ゾンビウイルスに感染し、ゾンビ化してしまったジェイズさんを俺が……」
「そう……ですか」
女性から憎悪の視線を感じたがすぐになくなった。
「……これは紛れもない、ゾンビ化する事実を知らなかった俺のせいです、すいません」
……やっぱり全て真実を語るなんてできない。
誰かを救うには必ず誰かが傷つかなければならない。
「……あなた、今年齢は?」
「16ですが……」
「そう、ジェイズは18だった、あなたとそう変わらない。……あなたは家庭を持っている?」
「いえ、ずっと冒険をして来たものですから……」
「ジェイズは家庭を持っていた、小さな子供も真っ当な職業も」
言われてみるとジェイズさんは俺とは違う、懸命に働き、養わなければいけない家族がある。
「あなた、親が貴族か何かでしょ?」
「いえ、俺はそんなんじゃ……」
「嘘をつかないで、その高価そうな剣にチェストガード。そんなもの一般人が手を出せる代物じゃない」
「…………」
貴族が親なのは間違っているが、装備にお金が掛かっているのは間違っていないので、ぐうの音も出ない。
「ジェイズはね、昔っから童話に登場する国を救ったという勇者アサキに憧れていてね。小さい頃から不器用ながら人一倍努力していたの。そんな前向きな彼に私は一方的に惚れて、ついに結婚して子供もできた…………なのに、なんで死んじゃうの……私を置いていかないで……」
「…………」
よく考えてみれば、この人はこれからどう生きていけば良いのだろうか。
働き手がなくなり収入がなくなり生きていくお金がなくなる。
「なんで真面目に生きて来た彼が死んで”あなた”みたいなのほほんと、人生楽して生きて来た人がいきのこるのよ!」
「……」
女性は慌てて口を塞ぐ。
「ごめんなさい、あなたのこと知らないのについ適当なこと言ってしまった」
「いや、間違っていないので……」
自分は生きていて良いのだろうか。あるいはこのままこの生き方で良いのだろうか。
◆◆◆◆
さっきの言葉が今なお、心で響いている。
「では、さようなら」
ジンはドアをゆっくりと閉める。
「パパは?」
「……まだ帰ってこないみたい」
帰り際に聞こえたその二人の会話はさらに俺の胸を締め付けた。
宿のドアノブを握ると気が緩み一気に涙がブワァーと吹き出して来た。
ミミィとミリエルは優しく俺を出迎えた。
ジンは情けない声を上げながら、ベッドに転がる。
2人は泣いている俺の背中を無言で摩り慰めてくれる。
俺はその優しさに身を委ね、さらに涙をこぼした。
俺は今までに経験した、苦労したこと、辛かったことを全てその涙に乗せて流した。
俺だって、楽な人生じゃないのだ。何度も死にかけたし、何度も血を流した。
俺だって殺したくはなかった。
俺は案外メンタルは弱いのだ。
汗も滴るいい男。汗臭い!!




