#29 左腕には右に出るものはいない
ゾンビを切り、ゾンビを切る。とにかく斬る。
今日は特に数が多い。いくら切っても減る気配がしない。
俺も含め皆かなり消耗してきている。
「いっだぁ!」
ふとした時、ジンがうねりをあげた。
ジンは一旦、その場を走り去り。ゾンビと距離を置く。
左手の人差し指と親指の間にある水掻きにクッキリとした噛み跡ができている。
ゾンビに噛まれてしまったのだ。
噛まれた傷からは緑色の汁が溢れている。
そんなジンを見たミリエルは急いで駆け寄った。
「ジン! 大丈夫なのじゃ?」
「ちょっと噛まれただけだよ、そんな心配する必要はない」
「それは大変じゃ!」
ミリエルは青ざめた顔を浮かべた。
そういえばゾンビってのは噛まれたらヤバかった気がする。なんだか思い出せないが。
ああ、そうだゾンビに噛まれたら……。
「ゾンビウイルスが体内に入ったら、ヌシもゾンビになってしまうのじゃ!」
「ふぇええ!!」
そうだ、ゾンビになってしまうんだ!
「なあ、おい、なんとかなんないのかよ!」
「えっと、えっと。そうじゃ! ゾンビウイルスが体内に回る前に腕を切り落とすのじゃ!」
「えぇ! いやだ、それもいやだぁ!」
「そんなこと言っている場合じゃないのじゃ! ほら早く!」
ミリエルは左腕に剣を押し付ける。
そしてジンはそれを抑えこむように剣をプルプル振るわせ、なんとかミリエルを抑える。
そうしている間にも、俺の左手はどんどんゾンビ色になってくる。
「早くするのじゃ! そう、そうじゃ、切ってくれたならば後でパフパフさせてやる」
「なんだよそのドラゴンボールみたいな報酬は! それにお前パフパフできるほどねぇーだろ、まな板だろ!」
「ま な 板!!!! 失礼にも程があるじゃろロリータコンプレックスに謝れ!」
「やっぱ、お前ロリの自覚あんじゃねぇか!」
「ロリじゃねーって、急ぐのじゃジン早く斬るのじゃ!」
ウイルスは剣先手前までに辿り着いてしまっていた。
くそぉ! 命の為! 16年ありがとう、俺の左腕! この左手で豊満なπを触らせられなくてごめんな!
ジンは心に決め、剣を振り下ろした。
「クソォぉぉ!!!!」
「ポトっ」という音と共に長年を共にしてきたかつての相棒が色を変えた姿で落ちていた。
切れ味は最高、鍛えていないのが丸わかり、豆腐を切っているかと錯覚させられた。
「遅かったか……」
ミリエルは哀しげな表情で呟いた。
切り口からはまた緑色になっていく。
そしてニョキニョキニョキと新たな左腕が生えてくる。
あっ、これ完全にゾンビ化止められてないじゃん、終わったぁ……。
そしてミリエルは俺の肩にポンっと手を当てた。
「勇者ならば、周りに迷惑をかけぬようその聖剣で腹を斬るのじゃ」
「いやだよ」
「斬るのじゃ」
「仕方ない、こうなったら気合いでなんとかするしかないか……」
ジンは少ない意識に力を入れた。
「ふぬぬぬぬぬ」
「無駄じゃよ……」
しかし、ジンの意思は通ったのか、ゾンビイロが通常色に戻って行き、最終的にはもと通りになってしまった。
「ほらみろぉ!」
すべすべな新品左腕を摩りながら自慢げに呟く。
「驚いたのじゃ……」
ロリータコンプレックスさん僕はあなたの全てを肯定します。




