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Scene8 -10-

  ガイファルドの初めてと言っていい明らかな苦戦に、ガーディアンズの隊員たちは口数少なく過ごしていた。飛行型機械虫と大型機械虫は倒したが、エネルギーを回収するという敵方の目的は達成されてしまったので、今回の戦いは負けと言っても過言ではない。

  ガイファルドの大きな損傷と敗北感、付け加えて機械虫には知性がある、または知性ある者によって運用されている端末ではないかという可能性が出てきたことが、今後の戦いの厳しさを隊員たちの心に植え付けた。


  現在、海上を飛行するイカロスは戦いで受けた被害により巡航速度の半分程度で航行していた。

 アクトは今もセイバーの中で眠り続けている。

  エマは合身を解いたあとでもレオンとノエルが横たわるガイファルド待機室に留まり、アクトが眠るセイバーをじっと見ている。

  もうひとりの共命者ルークは、レオンが右腕を失ったことで発生した右腕の痛みと痺れの検査を受けるに医務室に来ていた。


  「大丈夫?」


  ルークが医務室から出てきたところで美紀が声をかけると、彼はいつもの陽気な調子で笑って返した。


  「レオンの右手がなくなちゃったからどうなんだろうか気になって」


  「ガイファルドが傷を負っても俺たちの体はなんともないよ。この痛みや痺れも脳に残った強い記憶から来る幻痛のようなもだろうって」


  美紀はルークの腕をじっと見つめる。


  「いやぁさすがに腕が吹っ飛ぶとか思わなかった。あれは普通のコアじゃないな。美紀ちゃんデータ取ってるんだろ? あとで博士に聞いてみようぜ」


  「厳しくなってるよね」


  「ん?」


  美紀はルークの腕を見たまま続ける。


  「機械虫なんて最初は相手にならなかったのに。アクト君が来てガイファルドが三体になって、もっともっと戦いが楽になると思ったら、逆に連結機械虫が出てきて。今回は飛行型とか大型とか……。いつかレオンとあなたがライゼインみたいに……」


  美紀が顔を上げてルークを見ると、珍しく真剣な表情で美紀を見返した。


  「厳しくない戦いなんてそうないんじゃないか? 確かに戦闘力って点で言えば以前の機械虫は大したことなかったけど、正直に言えば合身に慣れてない俺とノエルは機械虫よりも合身することの方がしんどかったんだ」


  ふたりとも弱音を吐くタイプではないためそのことを知る者は少なかった。未知のテクノロジーを使いこなすことは難しく、合身による問題があってもそれを調整することはできない。今後もいかなる後遺症が出るかもわからない手探りの運用なのだ。


  「正に今、アクトはその真っただ中で大変なんだと思うけど、あいつは合身が楽しいみたいでよくわからねぇ。ともかくそれを乗り越えたところで機械虫のレベルが上がってきたって流れだけど。俺はこれまでの戦いは今後のための訓練期間だったんじゃないかって思ってる」


  「訓練?!」


  ルークの考え方に美紀は驚いていた。


  「もし神様がいるなら優しいよな。小さな機械虫から始まって、徐々に大きく強くなって、俺たちが稼働できるまでは機動重機たちがなんとかしてくれていて。最初から今日みたいなのが出てきていたら人類は全滅していたかもしれないじゃん」


 そう話したルークは大きなあくびをした。


  「検査も終わったしひと眠りさせてもらうことにするよ。レオンはあんな状態だけど、共命者の俺が元気ならなんとか戦えるだろうから」


  「うん、ゆっくり休んで。大型機械虫のコアの件は私がやっておくから」


  「よろしく。レオンの心配してくれてありがとっ」


  ルークは手を上げて自室に戻って行く。


  「もちろんレオンの心配もしてるけど、あなたの心配してるのよ」


  美紀はそう呟いてほほを膨らませた。

 

 

 

  イカロスがS国を発ってもうすぐ2時間が過ぎようとしていた。飛びながらも各部のチェックと整備、必要に応じて修理をしていたのだが、直しても調整しても次々に問題が発生し、PRLピラーロボットレイバーたちは常に働き続けていた。


  「機関出力38%へ」


  「ディストーションミラーとレビテーションシステムへの電力供給を最優先。航行速度は落ちてもいい」


  いつもは自動航行システムで帰還するところだが、今回は異常が発生したら直ぐに対応しなければならないため、気を抜くことができない。乗員たちも体力と精神をすり減らしながら働いていた。

  「なぁ博士、ちゃんと基地にたどり着けるのか?」


  ガイファルドと各種オプション・スタイルの確認のために後部格納庫に行っていた剛田が不安げな顔で艦橋に戻ってきた。


  「飛んで行けるかということならたぶん大丈夫だろうとしか言えんよ。現状のままならね。でも何が起きるかわからない。もしかしたら動力炉がダウンするかもしれん」


  現に今から40分前に動力炉が停止してしまったからだ。出力調整の命令をコンピューターが誤認してエンジンがアイドリング状態を下回ってしまったことで起きた事態だ。それはすぐに解決できたが、今後何が起きるかわからない。


  しかし、博士に焦った様子はなくコーヒーを飲みながら今回の戦いのデータを整理している。

  そこで剛田は気が付く。博士だけでなく艦橋にいる者すべてがどこかリラックスしていることに。


  「なんだよみんなして。緊張感が足りねぇんじゃないか?」


  ふふふふ。日奈子が笑う。そして航路監視士としての仕事を始めた。


  「一時方向40キロメートル先の海底に信号確認」


  「海底に信号だと」


「そう、迎えが来たんです」


  ここは海のど真ん中だ。そんな場所に迎えが来る。最初こそ意味がわからなかった剛田だが、ふと建造中のある物が頭に浮かんだ。


  「あれか? あれが来たのか?」


  「そう、最終テストをしていたあれがこちらに迎えに来てくれた」


  メインスクリーンに映し出された望遠映像には海の中から浮かび上がる影が薄っすらと見え、そこに波しぶきが上がると巨大な物体が現れた。


  「グランドホエール号」


  それは300メートルを超える超巨大潜水艦だ。


  「とうとう完成したのか」


  「うん、最終テストも9割方終わったそうだ」


  グランドホエール号は後部甲板を開きイカロスを誘導する。


  「プログラム受信。これよりグランドホエール号の制御下に入り着艦フェイズに移行します」


  全長100メートルほどのイカロスを丸々と収容したグランドホエール号は、上部甲板のシャッターを閉じて再び潜航を開始。そこでようやくイカロスの乗員は労働と緊張から解放されるのだった。


  グランドホエール号もまたオーバーテクノロジーによって建造されている。巨大な船体ながら超空洞技術スーパーキャビテーションの更に先の技術を用いており、水中の航行速度は最大で亜音速に達する。その速度で航行するには陸地から離れているなど、それなりの条件がある。

  少なくとも現代の潜水艦に倍する速度で海中を突き進むグランドホエール号は、戦闘によって疲弊した機体と隊員を乗せて、静かに基地へと帰投した。


  それから間もなくして、セイバーの中で眠っていたアクトの合身が解除され、セイバーの手の上に排出されると、膝を抱えて座っていたエマは立ち上がりセイバーのもとに駆け出した。


  「アクト!」


  ゆっくりと下ろされるアクトをエマは受け取りアクトがゆっくりと目を開く。


  「エマ、おはよう」


  「おはよう」


  「無事だったんだな、良かった」


  「それはわたしのセリフ。あなたは共命者としては初級なのに大きな力を使い過ぎ」


  この言葉は合身して間もない頃にその負荷で苦しんだエマの実体験から出た言葉だ。あれ程の出力を出すことがどれほどの負担であり、どういった後遺症を誘発するかはわからない。


  「それはあの力を使わなくてもいいくらい強くなれって意味なのかい?」


  「それもある。でも、あの力を使わなくていいくらい、わたしたちも強くなる」


  エマはアクトを強く抱きしめた。

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