Scene8 -9-
機械虫の攻撃を受けて墜落したイカロス。被害が大きくすぐに飛び立てなこの艦に機械虫が迫ってきていた。この状況に艦長のヤマトは総員の脱出命令を下したのだ。
「ヤマト艦長!」
「全員で死ぬわけにはいきません。特に博士や剛田はガイファルドのために生きなければならない人だ」
「だが、この艦にはセイバーが」
「わかっています。だからワタシは艦に残って抵抗はします。機密保持のことを考えればこの艦を自爆させなければなりません。ガイファルド待機室の隔壁なら多少は爆発の被害を防ぐことはできましょう。セイバーならそれで耐えられると信じていますし、アクトもセイバーの中であれば助かる可能性は高い。セイバーにとっては機械虫の直接攻撃を受ける方が危険でしょう。もし、万が一のことが起こったとしても、まだレオンとノエルがいます。それにはみんなの力が必要です。だから早く! お前たちもだ」
「……わかった」
博士が決断し、隊員たちが席を立って脱出艇に向かった。
動力炉のリミッターは解除され、出力は臨界へ向けて上昇している。航空爆雷は撃ち尽くし誘導弾は発射不能。イカロスに残っている兵装は大した効果の無い残弾数がわずかのマシンキャノンだけだ。そのマシンキャノンと大した差のない火力で機械虫を攻撃をしているのは、対機械虫世界軍事同盟の地上部隊だった。
謎の組織、天の使者、地球外惑星の兵器、光の国の巨人などと憶測がなされているガーディアンズとガイファルド。世界の多くの組織からは警戒され、少なからずの敵意を向けらてはいたが、個人としてはライゼインに代わる救世主として受け入れられていた。
今おこなわれている地上部隊の攻撃は命令によるモノではなく、兵士たち総意の独断行動であることをガーディアンズの隊員たちは知らない。
この攻撃は機械虫に通用してはいなかったが、脱出艇が発進する時間稼ぎにはなっていた。
「感謝するぞ同盟軍」
イカロスの艦橋にひとり残るヤマト艦長が感謝の言葉を口にする。
「発進します」
ジョーがそう告げてスロットルを開けるとイカロスの上甲板付近に接続されていた小型艇が切り離されて飛び立った。
「よし、あとは貴様らの始末だけだ。耐えろよセイバー」
機械虫がイカロスまでの距離を30メートルへと縮め、もう一体もにじり寄ってくる。同盟軍の地上部隊は脱出艇が飛び立ったのを見て後退し、タマゴを背負った機械虫たちは決着と判断したのか再び移動を開始し始めた。
「さぁ来い」
エンジンは臨界に達し、スイッチを押すだけとなった艦長は、これまでの戦いを思い返していた。
「割と楽しかったな」
もう一歩というところで二体の機械虫が急に動きを止めた。
接触と同時に自爆しようとしていたのだが、機械虫たちは逆に後ずさりし始めた。
「なんだ? 後部ハッチが開いている」
攻撃手段を持たない脱出艇の者たちもそれを確認していた。
不意に後部格納庫から何かが飛び出し、それは機械虫の首を掴かみそのまま殴り飛ばした。
「「セイバー!」」
一同が一斉に声を上げる。
力を使い果たして倒れていたセイバーが飛び出して機械虫と戦いはじめた。
脱出艇ではセイバーのステータスをモニターできないのだが、脱出直前ではアクトの意識は戻っていないことを美紀は確認していた。
見た目にダメージは残っていながらもセイバーは2匹の機械虫を相手に立ち回っていた。
「頑張れセイバー!」
「やっちまえ!」
その応援を受けてかセイバーは攻撃するたびにふらつきながらも必死に戦っていた。
イカロスの攻撃を受けてダメージを負っていた方のコアを貫き、残りはB級上位の機械虫だけとなる。オプション・スタイルは無く、蜂型機械虫の電撃を何発もけて、限界を超えた力は発揮した状態のセイバーがイカロスを守るために戦っていた。
組み合ったセイバーは踏ん張りきれずに膝を付き後ろに倒れてしまう。馬乗りとなった機械虫はそのまま4本の脚をセイバーに叩き付ける。
苦しい表情で両腕を使ってガードしていると、イカロスのマシンキャノンが機械虫の襲った。
「今だ、セイバー!」
のけ反った機械虫を蹴りはがして立ち上がり、その巨体を加速させてコアを守る装甲を全力で拳を打ち込む。
何度も何度も拳が叩き付けられ、装甲を両手でこじ開けられた機械虫のは口からエネルギー弾が発射する。フォースフィールドも展開していない状態で至近距離でその攻撃を受けたセイバーの生体装甲が飛び散る。だがセイバーはそれにもひるまず拳を叩き込み、機械虫のコアを打ち砕いた。
2匹の機械虫を破壊したセイバーそのまま後ろに倒れてしまう。そしてここで博士は気が付いた。
「剛田君、気が付いたか?」
「何にですか?」
「セイバーだよ」
大の字で倒れているセイバーをしばし凝視していた剛田はようやく博士が言っていることに気が付いた。
「合身状態じゃねぇのか」
セイバーはアクトと合身すると体にあるラインンが白から黄色に変化する。それ自体に意味はないが、アクトがそのようにイメージしたからだ。
剛田の言葉を聞いて皆もそれを確認する。
「ではアクト君の意識はまだ戻ってないということなんですね」
博士のうなずきに日奈子は、エマのためにアクトが目覚めて戦って欲しいと願ったことに罪悪感を覚えた。
脱出艇をイカロスにドッキングさせ、艦橋に戻った博士たちは、艦長席でうつ伏して動かないヤマトに驚いて駆け寄った。
まさに命を懸けた行動に張りつめていた精神が反動で緩み過ぎたということらしい。
みんながガヤガヤとしている中、剛田は通信席に座ってセイバーに呼びかけた。
「おい、セイバー聞こえるか? 剛田だ」
「……はい、聞こえます」
少し間を置いてセイバーが返答した。
「アクトはどうした、大丈夫なのか?」
「アクトはまだ眠っています。深い深い場所で」
「深い?」
意味深な言葉ではあったが、危機が去った安心感もあって、そこには深く追求しなかった。
「動けるか? イカロスを応急修理したらレオンとノエルを迎えに行かなきゃならない」
「わかりました、乗艦します」
セイバーは辛そうに起き上がって後部ハッチから乗り込むと、ガイファルドの待機室に入って座り込んむ。
「では艦の応急修理を始めましょう」
ぐったりしている艦長に代わって美紀が号令を掛ける
全てのPRLと整備ロボットがフル稼働し、電源系統と艦尾中央のインパルスドライブ1番機、レビテーションシステムを優先して修理を開始する。そうしてイカロスが飛行可能状態になるのに2時間を要した。
その間に同盟軍の将校のひとりが代表して接触してきたが、秘密結社であるガーディアンズはそれに対して無視を決め込む。その将校は日頃の感謝を言葉にして伝え、部隊へと戻っていった。
機械虫たちは海岸線で反応が消失。やはりアーロンの見立て通り海中へと入っていったらしい。今回は機械虫たちにしてやられてしまったガーディアンズだが、これは明らかに明確な目的のもとに立てられた戦略であった。
修理を終えて整備に入り、各機関のチェックが完了した頃、ノエルとレオンから通信が入る。
「目が覚めたか」
「あぁ今覚めた。覚めたら人が群がってたよ」
現在ノエルと重なって倒れているレオンの周りには、防護服に身を包んだ大勢の人が集まっていた。その理由は動かなくなったガイファルドを調べるためだった。
「上に乗っかってる奴もいうぜ。どうする?」
「丁重に下ろしてあげなさい。我々は秘密結社だが人類とは友好な関係であらねばならないからね」
「リョーカイ」
若干棒読みぎみに了解したレオンはゆっくりと体を動かし始めた。突然動き出した巨人に驚き腹から滑り落ちそうになる人を、やさしく受け止めてそっと下ろす。
レオンに続いてノエルも起き上がると同盟軍の者は散り散りになって離れていった。
「今からそっちに向かうが、地上に降りて乗艦するのは避けたい。ジャンプはできるか?」
「わたしは大丈夫。レオンも片腕が無いからその分軽い。飛べるはず」
「お前が言うと本気か冗談かわかりづらいんだよ」
通信から3分してイカロスがやってきた。そう離れていない場所に大勢人が居るため、ノエルはレオンを連れて移動を始める。するとそこにひとりの青年が走り寄ってきた。
「おーい巨人。いつもありがとう。今回も助かったぜ。今は助けられてばかりだけど、いつかお前たちを助けてやるからそれまでは頑張ってくれよな」
突然の表れた青年は怯えることなくガイファルドの前に立ってお礼と激励を叫ぶ。
その行動に驚きつつ笑顔を返してレオンは立ち去る。
「俺はエイサーだ、覚えておいてくれ」
その背後から青年が名乗ると、
「レオンだ」
とレオンは名乗り返した。
「おいおい」
そうレオンに突っ込んだのはレオンの共鳴者のルークで、エイサーに名乗ったのはルークではなくレオン自身だった。
「おまえ勝手にそんなことして。後で何言われても知らねぇぞ」
「いいじゃねぇか名前くらい。あいつ俺たちを助けてくれるって言ってるんだぜ。その心意気を買ったまでだ」
人類を守る立場であるガイファルドに向かって「助けてやる」と堂々と言う青年に、レオンは記憶の片隅に留める程度には関心を持った。それでも戦うことしかしないレオンにとって、仲間たち以外の人間を少なからず意識することは初めてのことだ。
「その腕痛い?」
不意にノエルがレオンに言った。
「すげー痛いよ。死ぬほど痛いってのはきっとこういう痛みだな」
「そう、わたし腕がなくなったことないからわからない」
「俺だってねぇよ。初めてだよ。そしてもう二度と経験したくはないね」
「でも慣れておくことも大事」
「慣れるかっ!」
そんなやりとりをするふたりの上にイカロスが到着する。
レオンが乗って来た小型輸送ジェット機が着艦させ、牽引ロープで下ろされたオプションボックスにノエルが大破したヘビーアームズを積み込む。そのノエルの背中に向かってレオンは言う。
「お前、最近口数が増えたよな」




