はじまり
俺は引き返して教室に戻る。するとやっぱりいた。突っ伏したまま、そのまま寝ている。いつも通りの姿だ。まあ、いつもより起きるのが遅いというのはあるけど、まあそれだけだ。
「青柳さん。起きて。」
肩を揺らしてみるも反応がない。どうやら今日の眠りは深いらしい。
俺はため息をつく。
「しょうがないな・・・。あ・お・や・な・ぎ・さ・ん・お・き・て!!」
俺は耳元で叫ぶことを選んだ。こうでもしないと起きないのだから。
「うるさいなあ。静かにしろよ。人様の迷惑になることはしてはいけませんって親から習わなかったのか?」
「起きてたんだね。青柳さん。」
「寝てるふりをしてたら勝手に諦めてどっかに行くと思ったのにな。」
「それは青柳の学習能力がなさすぎ。俺はしつこいからな。」
「きもっ。」
「聞こえないように言っているつもりなのかもしれないがまる聞こえだぞ・・・・。とにかく起きて。」
「んーあと5分。」
「だめ。」
「お前なあ。わかったよ。起きればいいんだろ?はあよく寝た。」
そう言うと、青柳さんは背筋を思いっきり伸ばす。背筋を伸ばすと、問題児の顔が明らかになる。
相変わらず美人さんだなこいつ・・・。
青柳紅葉。ショートカットの髪の毛が特徴的な少しきつめの美人さんだ。しかし、素行はよくないし、もちろん教師からの評判も良くない。はっきり言ってクラスからも孤立しているし、味方もいない。この彼女のことを表す言葉としてふさわしい言葉があるとすれば、それは「ぼっち」とか「残念」こそがふさわしいのかもしれない。言い方を変えれば孤高などといえるのかもしれないが。物は言いようだ。
「それで今日は何の用なんだ?私は人間が嫌いなんだ。手短に頼む。」
そして、本人もこんな調子だ。この言葉だけで察せることが多い。本当にこの子は残念な子なのだと。
「青柳さん、今日の文理分けの調査票のプリント出してないでしょ?」
寝ぼけた目で青柳さんはこちらを見ているだけだ。俺はそれを肯定のサインと受け取る。
「おかげで俺が青柳さんからプリント出すように頼まれたんだけど。」
「ふん、どうせ。ほかの子が嫌がるからあなたに役が回ってきたのね。」
「確かにその通りだけど。そうならないように少しは頑張ってよ。他のクラスの子もどう扱っていいのかわからないみたいだし。だって青柳さんって俺と左京さんくらいとしかまともに会話できないよね?」
「左京さん?ああ。あのおっかないメガネの委員長さんね。あの子そんな名前だったのね。初めて知ったわ。」
「いやいや、一番世話をしている人の名前を知らないって・・・・。」
「案外そんなものよ?だってわたしはあなたの名前も実はまだ知らないもの。何だったかしら?く・・・・にく?」
「國木だよ。どっからくにくって文字が出てくるんだよ。」
「いえ、苦肉の策とかっていうじゃない?それに近い名前だったような気がしたのよね。そうか國木君だったの。」
「なんで俺はそういうい覚え方されてんだよ・・・・。なんかひらがな二文字あってるのが腹立つけど。そんなことより早く調査票を書いてくれないかな?俺、この仕事を終わらせないと帰れないよ。」
「私にかまわず帰ればいいじゃない?」
「そういういうわけにはいかないかな、先生にも迷惑がかかるし。青柳さんにとっても困るでしょ?」
「そう・・・・。」
なぜか青柳さんは少し寂しげな表情を見せた。
「わかった。書くわ。こんなものすぐに終わるしね。」
「のわりには時間かかってるけどね。」
「うるさいわね。」
「はいはい。」
「そういえば、あなたは文系なの理系なの?」
「俺?俺は理系かな。」
「ふーん。そう。」
そう言うと彼女は理系のチェック欄に綺麗な丸をした。
「へー理系なんだね。」
「ええ、私の得意科目は国語、英語、世界史だしぴったりな選択だと思うわ。」
「いや、それ理由になってないんじゃ・・・。」
「何を言ってるの?できないことが多い方が達成感もあるし楽しいわよ。それにわたしはできないことがることが許せないの。楽だからといって得意科目で文理選択を決める人よりはましだと思うわ。」
「そうかな?それもいい判断だと思うけどな。」
俺は単純に得意科目で決めたけど・・・。
「はい、プリント。これが欲しかったんでしょう?」
「はいはい。ありがとう。」
彼女は床にプリントを置いて丁寧にも踏んづけて足跡をつけて満足そうにかわいらしくにっこり笑うと、荷物をまとめ、教室を出て行った。わざわざ床に置いて踏んづけていくあたり彼女らしい。なんというかひねくれているというか・・・。俺をいじって楽しんでいるような気がしなくもない。
「美人なのにな。」
俺はポツリと独り言を吐くと、そのままプリントを拾い。職員室に向かった。




