はじまり
授業が退屈だ。俺は黒板の数式をノートに書き写していた。
このノートに写すという作業は嫌いだ。写メでもすればいいと思うのだけど、先生は許してくれない。時間短縮。労力の無駄遣いの防止。そう言っても聞き届けてはくれない。そして、そんなくだらないことを言うな、と怒られる。
というのがオチだ。そう。オチは見え見えでみんなそんな愚行を犯して、先生に怒られるという茶番はしたりはしない。
それが普通だ。
しかし、その茶番を行った人間はこのクラスにはいる。
そいつの名前は青柳紅葉。女だ。俺の隣の席の問題児。それが彼女に張られたレッテルだ。
確か先生に怒られたのは、春先だったか。俺が退屈そうに授業を受けていたら、突然、先生に
「黒板の内容を書き写す意味って何でしょうか?」
と発言したのだ。
俺は思わず、口があんぐり開いてしまった。それはみんな誰しも一回は思っているようなことだが、教師に面と向かってこのことを指摘するという光景を見るのは信じられなかったからだ。しかも、この進学校で知られている古江高校の生徒で。
そして、当然の結末として彼女は教師に酷く罵られ怒られた。しかし、その茶番が終わると彼女はそんなことには意も介さずに、ひとつ欠伸をすると、突っ伏して居眠りしはじめてしまった。
その時のクラスはしーんとしていて、とても静かで彼女を腫物を見るような目で見ていた。あの時のインパクトは強く頭に残っている。今年の春先のお話だ。
その時にクラスの注目を浴びていた女の子は自分の隣の席にいる。窓側の一番後ろの席。それが彼女の席だ。今もちらりと横を見ると彼女は寝ていた。綺麗な子だけど、少し変わった変な奴。それが彼女に対する俺の印象だ。深くかかわったことはないので、この印象があってるのか間違ってるのかわからないし確かめようもないのだが。
でも、教師に盾突いたときはおっかないやつだと思ったが、今の寝ている姿はかわいらしいのになと俺はふと思った。
「ん?國木何をにやけてるんだ?授業を聞いているのか?そうだ。お前この問題を解いてみろ。」
そんなことを考えていたら教師に当てられてしまった。
授業が終わり、下駄箱に上履きを片付けつつ、今日の晩御飯を何にしようかと考ええていたらふと話しかけられた。
「にしても、夏之助が答えられないなんてどうしたんだ?珍しくて思わず、起きちまったよ。」
登だった。
「何って・・・。」
青柳さんのことだが、登には知られたくないな・・・。余計な勘ぐりとかされても困るしな。
「好きな女の子のことでも考えてたか?」
「なわけねえだろ。」
まあ、その通りなのだが。こいつの恋愛になんでも結び付けてくる悪癖はうんざりする。
「だよな。お前にはそんな浮ついた話なんてないよな。」
俺は少しムッとする。登には言われたくない。
「なんか決めつけられるのはそれはそれで嫌だな。」
「何だよ。扱いにくいなあ。女の子かよ。お前。」
お前そんなに女の子のこと知らねえだろう。と心の中で突っ込む。
「そういや、左京さんに何か言われたのかお前?」
めんどくさいので話の流れは無視し、左京さんの話題にする。こいつはあのメガネの委員長さんには弱い。
「急に話変えやがって・・・・。想像に任せるよ。はあ・・・・。嫌なこと思い出せるなよ。大したことなかったし。」
「だよな。ビンタの一つで済んでよかったじゃないか。」
「って、お前知ってんじゃねえか。」
まあ、さっき左京さんから話を聞いたのだから、知っていて当たり前だ。
「まあまあ、女の子からビンタをもらうなんていい経験じゃないか。俺は経験した事ないし、あー羨ましいなあ。」
俺はもちろん思いっきり棒読みだ。
「っておまえなあ・・・。」
「二人で談笑しているところ悪いんだけどさ。」
振り向くと、クラスのモブキャラ的存在の神前さんが何やら神妙そうな顔つきで立っていた。モブといってもけっこうクラスのことに尽力してくれるいい子なのだが、どうにも影が薄く。モブ子と呼ばれている。いい奴ではある。本人も影が薄いのは気にしているらしい。
いや、それにしても何の用なのだろうか?




