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羞恥心の限界に挑まされている  作者: 山口はな
第27章 2年生の夏期休暇

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747.成果発表の裏側で

……遅くなりました。

 ──時は、成果発表が始まる前に戻る。




『いってくるー!』

「キュイッ!」

 ぷるぷるん、と元気に挨拶した従魔達を見送り、瑠璃は商店街へお使いに向かった。


「おや! ルリちゃん、えらく久しぶりじゃないかい?」

「お嬢様の付き添いで領地に帰っていましたの」


 瑠璃とマーシャが王都に戻ったのは、稜真達が戻る3日も前。

 それなのに、旅行疲れが出ているだろうと、管理人夫婦は瑠璃に仕事をさせてくれなかった。管理人夫婦は瑠璃を孫のように可愛がっているのだ。


 あえて言えば、仕事をする管理人夫婦の近くで座り、休暇中の話をするのが仕事。何度同じ話を聞いても飽き足りないらしく、瑠璃は1日に何度も同じ話をした。

 王都の方は全く変わりなく、管理人夫婦が少々暑さで疲れが出ていたのだが、それも瑠璃が帰ったことで吹き飛んだようだ。


「俺では癒されないらしい」

 本来の孫であるウォーレンが苦笑した。


 仕事が詰まっているせいで、朝早く出かけて夜遅くに帰って来るのだから会話も少ない。それでも毎日帰宅するだけ以前よりましなのだが、成人男性のウォーレンに可愛さはない。癒し担当ならアンとペルの方に天秤が傾く。


「ルリがいるだけで過ごしやすくなるねぇ」とバーバラが笑い、ウォーレンがゆっくりと頷いた。

 気持ちの問題だけでなく、瑠璃が湿度の管理をするからだった。蒸し暑ければ空気中の水を減らし、外の石畳には打ち水をする。家の石壁にもこまめに水をかけて、家自体が熱を持たないようにもしていた。

 そもそもこの家の周辺には精霊が多いので、瑠璃が頼めば心地よい風を吹かせてくれるのだ。


 ついでに瑠璃は、管理人夫婦の肩を叩いたり揉んだりする時にこっそり癒しの力を使っているので、物理的にも体が癒されていた。

 ある意味しっかり仕事をしていた瑠璃である。


 アンとペルも老夫婦の手足となって動いているので、瑠璃が無理に仕事をする必要はなかったが、それでもちゃんと仕事をしたいと思っていた。


 過保護な管理人夫婦を説得し、瑠璃は今日から仕事復帰をしたのである。


 可愛いメイドさんは商店街のアイドルだ。

 どこの店でも、夏期休暇の間見かけなかった瑠璃にたくさんのおまけを付けてくれた。精霊の瑠璃は荷物を空間にしまう事が出来るが、人として暮らしているからそれは出来ない。

 小さな手にたくさんの荷物、運ぶのは大変だが問題はなかった。


 今日から復帰すると聞いていた友達のリュイとテッドが、待ち構えていたからだ。


 お休みの間、この2人とは毎日話をしていた。マーシャはバルナバ家で暮らしているし、親戚のテッドも同じ家に住んでいる。必然的にバルナバ家で4人集まって、休暇の間何をしていたか話をしていた。


 ちなみにマーシャは、管理人夫婦以上に過保護な祖父母が、まだ仕事復帰は早いと許可をくれない上に、外出も禁止されている。そのくせ珍しいものを食べに行こう!買い物をしよう!とあちこち連れ回されていたりする。

 贅沢には断固として反対すると決意しながらも、しょんぼりする祖父母──特に祖父にほだされてしまうマーシャなのである。




 その頃、稜真は草むらに身を隠していた。


(参加するつもり…なかったのになぁ…)


 今朝ペルに「では、リョウマ様は参加されないのですか?」と聞かれた時、稜真は「予定があるんだ」と答えた。

 アンとペルが残念そうな顔になったのは、忍者技を極めている稜真にこそ見て欲しかったからだ。


 マダラの手紙には、『ギジェルをリョウマに紹介したい』と書かれていた。ここに来いという地図と共に。


 ギジェルは犬の獣人で、コボルト達に隠密行動の指導を頼んだ人物だ。実際に会っていないので、1度は会わねばと思っていた。今日の訓練成果の発表に行かなくていいのか気になったが、誰か他の人が行っているのだろうと考えていた。


 マダラにリクエストされた手土産を持って、稜真は下町の住所を尋ねた。


 ドアを開けたのはマダラだ。手土産を持ったままどうしたものかと戸惑っていたら、ヒョイッと手土産を持っていかれた。


「ボス。紹介して下さるギジェルさんはどこに?」

「あいつは弟子共の鍛錬成果確認に行っているが?」

「行っているが…って。俺に紹介してくれるんじゃなかったんですか?」

「そのつもりだ」


 稜真に答えながら、マダラは稜真の手土産を手づかみでむしゃむしゃと食べている。


 手土産はキッシュだ。サクサクのパイ生地に、コロコロに切ったハム、チーズ、玉ねぎ、ほうれん草が入っている。切り分けておいたので食べやすいのだろう。パイ生地の欠片を落とさずに、器用に食べている。

 見る間に平らげたマダラは、一切れだけ残して皿に入れ、ふきんをかけた。


「さて、行くか」

 そう言うとマダラは猫に変身して稜真を見上げた。つまり稜真も猫になれと言っているのだろう。

 稜真の変身を待たず、マダラは窓から外に出て行った。


 こうなっては仕方がない。稜真も猫に変身すると、窓から外に出てマダラの後を追った。


『猫が戸締まりを心配するな』

『そう言われても…』

 窓から出た稜真は、窓を閉めて来たのだ。鍵までは閉められなかったのが心残りだったのに、戸締まりを気にするなと言われても。


 敷地内に猫の気配がしたので、何らかの防犯手段を講じているのか。もしくは近所づきあい等で防犯面に心配がないのか。気にしても仕方ないので、考えないことにする。


 実は、あの窓にはしかけが施されており、しかけを動かせば、猫が通る隙間しか開かないようになっていた。入り口のドアは、稜真が入った時にマダラが戸締まりをしていたのだ。



 下町にあるこの家から、貴族街にある新伯爵邸までは距離がある。猫の足では時間がかかりそうなものだが、猫にしか通れない裏道を熟知しているマダラは速かった。

 時に塀を乗り越え、時に地下道を通り、時には大通りを駆け抜けた。

 スピードをゆるめず、障害物をものともせずに走り抜ける姿がアリアとかぶって見えた稜真である。


 稜真も遅れずに付き従い、無事に新伯爵邸に到着した。


 稜真とマダラが到着したのは、ちょうどアリアが正門前に立った時。

「ニャウ」と稜真が小さく鳴いた声に反応したアリアが振り返り、満面の笑みを浮かべる。回りの猫が聞こえていないのに、どうしてアリアだけが聞こえるのやら。

 アリアに聞いたなら、「稜真様の声を聞き逃す訳ないじゃないの~」と答えただろう。それはともかく、これで稜真とマダラが参加するのが分かってもらえた。


 アリアと猫達が突入し、派手な戦闘音が聞こえはじめる。

 侵入作戦とは? 疑問に思った稜真は、アリアのやり過ぎが心配になった。


『リョウマ、行くぞ』

『はい、ボス』


 気にしていても仕方ない。せっかくの機会だ。ボスの動きを勉強することにする。


 アリアと戦闘しているコボルト忍者とは別に、猫の侵入を警戒するコボルト忍者もいる。罠があちこちに仕掛けられており、侵入した猫が捕まるのが見えた。


 マダラは仲間の猫にすら悟らせずに動く。


 時に地面にぴったりと伏せ、時に素早く樹上に飛び乗り、時には枝を渡って移動した。どの行動も音を立てないのだ。


 真似ようとした稜真は、何度か音を立ててしまった。なんとか見つからずにすんだのは、マダラがコボルト忍者の気を引いてくれたお陰だ。

 時折わざと気配をもらし、コボルト忍者を翻弄する姿は、獲物をいたぶる猫そのものだ。


 それはともかくとして、自分の未熟さに反省しきりの稜真なのである。




 そしてマダラと稜真は薔薇園のガゼボに到着した。そこで待っていたのは、落ち着きのある、穏やかな笑みを浮かべた男だった。

 薄茶の髪に焦げ茶色の瞳。ピンと立った耳とふさふさの尾は、髪色よりも若干色が濃い。

 笑みから穏やかな人物の印象を受けるが、隠密行動の教師となるからには、印象通りの人物ではあるまい。王都の夜の住人に存在がバレバレだったコボルト忍者隊だが、それなりの腕前を持っているのだから。


「はじめましてですね。リョウマ様、私がギジェルでございます」

 稜真は人の姿に戻った。

「はじめまして。リョウマ・キサラギです」

 視線を交わした2人は、お互いに好感を抱き固く握手を交わしたのである。


「なんだぁ、お前ら。初対面なのに、気を許すのが早すぎねぇか?」

 人の姿になったマダラが吐き捨てる。


「破天荒な主に振り回されている方に思えるのですよ」

「無鉄砲な主に振り回されているように思えて」


 破天荒と言ったのがギジェルで、無鉄砲と言ったのが稜真である。つまりマダラは破天荒な主なのだろう。ここに来る道中で、稜真はマダラとアリアに共通点を見いだしたのだが、どうやら間違っていなかったらしい。


「ケッ」

 マダラはガゼボに用意されていたポットから、カップにお茶と注いで飲む。ポットのお茶は冷茶で、熱い物が苦手な主の為にギジェルが用意したのだ。

 稜真はお茶菓子を提供する。


 手土産のほとんどをマダラに食べられてしまったが、多めに焼いたキッシュはアイテムボックスに入っていたのだ。


 稜真とギジェルは穏やかに会話をし、親交を深めたのである。




 ──そして忍者隊が到着し、ゴール地点にいたマダラと稜真を見て膝をついた。


 落ち込みから最初に立ち直ったのはアンとペルだ。

「…僕達、ちゃんと上達している」

「そうだね。侵入したのはあいつとリョウマ様…だけ…」と言ったら、ギジェルの冷ややかな視線に気づいた。


「教官…何か?」

 忍者隊からギジェルは教官と呼ばれているのだ。


「未熟者」

「うぐっ! それは思い知りましたけど、侵入を許したのはリョウマ様とマダラ様だけです!」

 マダラをあいつと言ったから怒っているのだと思ったアンは、マダラ様と言い直した。


「まだ気づいていないのか」

「「……まだ?」」


 ギジェルの視線をたどると、薔薇の根元の土がもこもこっと盛り上がって、穴からちょこが頭を出した。続いて土で茶色く染まったそらと、ももとさちが飛び出す。


 稜真が笑いながら、濡らしたタオルでちょことそらを拭いてやる。稜真に拭いて貰いながら、そらが一生懸命に秘密基地を広げたと話す。


 冒頭の瑠璃は、従魔達をここまで連れて来てからお使いに行ったのである。


 もちろん稜真は、ここで秘密基地を作ると聞いていた。時々気配を探り、楽しそうに作業をしているのを把握していたし、特に隠れようとしていなかった従魔達の存在はアリアも感知しており、忍者隊の攻撃が当たらないように気をつけていた。

 ももとさちがいるから防御に心配はないと分かっているが、万が一があれば稜真が泣くからだ。


「そう言えば。土を掘る気配を感じた気がした…」

「猫の陽動作戦だと思って…」

「全然気づかなかった…」


 気づいたコボルト忍者もいたが、ほとんどは気づいておらず、アンとペルも気づかなかった組だった。アンとペルはアリアと戦闘していたから仕方ないのだが、そう思える2人ではない。

 再び落ち込んで膝をついたところで、「未熟者」とギジェルに追い打ちをかけられ、地面にめり込みそうな程に落ち込むのだった。




 引き続きコボルト忍者隊は、ギジェル教官の指導を受ける事が決定したのである。




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